穂の国とよはし芸術劇場PLATでMONO「なるべく派手な服を着る」を観た

カテゴリー │演劇

3月19日(日)14時30分~

MONOは京都を拠点に活動する劇団。
2004年に「はままつ演劇・人形劇フェスティバル」で、
浜松で活動する劇団の自主公演や人形劇公演、各ワークショップの中、
招聘公演としてMONOの「相対性浮世絵」を上演した。

これは当時小劇場を中心に浜松に呼び、公演をしていたフリーランサーの榊原さんが、
実行委員会に関わっていたことから招聘に至った。
榊原さんは、東京や名古屋、京都や大阪など関西に自ら足を運び、
小劇場を観て、これはと思った劇団に声をかけ、浜松公演を呼びかける。
フリーランサーは榊原さんを主宰とした、小劇場招聘サークルだ。
揃って日帰りの観劇旅行にいったり、お花見会を開いたり、
招聘公演を行うとなれば、宣伝PR、チケット販売、滞在中のサポートをしたりする。
公演後の打ち上げがあれば、大きな楽しみのひとつだったかもしれない。

公演にあたり、劇団の主宰者等が、浜松に出向き、勉強会を開いたりする。
その中には青年団の平田オリザさんや燐光群の坂手洋二さんもいる。
横内謙介さんの扉座、佃典彦さんのB級遊撃隊、大橋泰彦さん・伊東由美子さんの離風霊船も招聘した。
MONOはフリーランサーとしては呼んでいないが、
当時の榊原さんの小劇場通いによる劇団採集作業の流れの中、名前が挙がったと思う。

僕は以前、榊原さんと同じ劇団にいたこともあり、
互いにそこを離れた後も、付き合いがあったので、
MONOのことも耳にする機会が増える。

この日観た「なるべく派手な服を着る」と同様、土田英生さんの作・演出。
土田さん自身も役者として出演するのが特徴。
立命館大学出身の土田さん、奥村さん、水沼さん、金替さん、尾方さんの5人は、
2004年の「相対的浮世絵」でも出演している。
しかも登場人物はこの5人だけ。
こんなに固定のメンバーが長く活動している劇団は珍しいのではないだろうか?

「なるべく派手な服を着る」は15年前の2008年に上演され、今回は再演。
同じ戯曲で5人は同じ役を演じる。
6人の男ばかりの兄弟で四ツ子だという長男~四男と年下の五男を演じるのがこの5人。
五男は存在感が薄く、派手な服を着ているが、兄たちから名前も思い出されない。
その下の六男は逆に四ツ子の兄たちからやたらと可愛がられている。

長男が父の面倒を見ながら暮らしている実家に兄弟たちが、父の具合が悪くなってきたのを理由に集まってくる。
父の跡を継ぎ書道家をしている長男は、かつて強盗殺人犯として逮捕されたことがあるが、誤認逮捕だったという過去がある。
長男をうらやましく思っている次男は、内縁の妻を連れてくる。
三男は写真集を出すほどの有名カメラマン。
四男は無職だが、次男同様内縁の妻を連れてくる。
存在感の薄い五男は、本人は恋人だ思っている女性を連れてくる。
そして、可愛がられている六男。

男ばかり六人兄弟というと、赤塚不二夫の「おそ松くん」。
ただし、こちらは六つ子で、
演劇の方は四つ子で、下に2人。
でも、これ、どこか赤塚不二夫の不条理な世界!と思う。
「天才バカボン」は、家族とその周辺を題材にしているが、
あの一家、現実の世界ではまったくリアリティがない。
パパ、ママ、バカボン、はじめちゃん。

演劇の兄弟たちのこの設定は、15年前演じるのと今演じるのでは感じるリアリティが違う。
俳優たちの実際の年齢と重ね合わせて見てしまうのだ。
40歳で演じていた時と50歳代半ばで演じている時。

独身の男が40歳で自宅で臥せった親の面倒を見るのと、
50代半ばになった時は状況は変わってくると思う。
親の年齢も違うので、自分でできることも違う。

また内縁の妻を持つこと、そして相手の事情、
好きな仕事をひとりで続けていくこと、
無職であること、
恋人だと思っている相手にも認められていないということ、
これらは、年齢が重なると、どこか重みも増す。

実家は、増築を重ねたという設定で、
まるで迷路のようで、特に台所に行くには、先ず押し入れに入って、
そこから何度か曲がらないとたどりつかない。

法事等で外に出ていた兄弟たちが集まった時、
嫁や内縁の妻や恋人など、他家から来た女性たちは、
台所でコミュニケーションを取る。

お茶を出すときや、お茶碗を洗う時、
そこで、いつもは言えない愚痴を言ったり、
また、この家の人たちと付き合う有用なアドバイスをもらうかもしれない。
そこに男たちはいない。

これはかつての日本的な「家」「家族」の構造かもしれない。
演劇が行われる主な舞台は、ちゃぶ台が置かれた居間であり、
掛け軸の文字は「家庭円満」。

これらの構造が時代と共に変化する。
故郷も家族も変化する。

それが一度大逆転するのがこの演劇の魅力。
荒唐無稽で、それ今まで気付かないのありえない、と正直思うが、
元々、赤塚不二夫の不条理な世界。
それを飲み込むと、テーマが見えてくる。

子どもの頃からかまってもらいたくて、派手な服を着ていた五男が、
ひとつの目的を果たす。
これは特別なことではなくて、承認欲求は、誰でも共通。
不条理ギャグ漫画も意外とロマンチックに普通に終わることも多いのではないだろうか。
ただ、俳優の実年齢と重ね合わせると、もっと早く果たせよ!とも言いたくなる。

最後に「セットがすごいと思う」。








 

掌編小説『書けないペンを捨てる』を書いた

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掌編小説 その8

手紙を書こうと、筆記用具をさがしたが、どのペンもインクがないという話を書こうとしていた。
その後に、子供の遺品を片付けに行くという話を思いついた。
手紙を書こうとしてインクがないという話でパソコンに向かっていたが、思い直し、遺品の話に変え、書き終えた。
始めに考えていた「書けないペンを捨てる」というタイトルを変えようとも思ったが、
意外と合うんじゃないかと思い、少しタイトルに寄せて書いたかもしれない。



『書けないペンを捨てる』                      
                               寺田景一


岸上保は、二十八歳で東京のアパートで自死した息子の遺品を片付けに来ていた。

葬儀はすでに終えていた。
どこで行うか考えた。
保と高校卒業まで住んでいた生まれた町か。
そこから遠く離れた東京か。
どちらも息子の死を伝えるべく交友関係が思いつかなかったので、東京で行うことにした。

運送会社の倉庫で荷物を運んでいる時、警察から電話があり、勤務先に事情を伝え、上京した。
警察の霊安室で息子の遺体と対面し、検視が行われることを伝えられた。
事件性はなく、自死であることは疑っていなかったのだろう。
署員に、葬儀の手配をすることを促され、葬儀社を探した。

息子が十三歳だった中学一年の時に別れたため、元の妻とは疎遠になっていた。
保はその後、息子と二人暮らしをし、妻は新しい家族を持った。

高校の卒業を待ち上京した息子のその先は良く知らない。
どこに住んでいたのか、何をしていたのか。

葬儀は、葬儀社の小さなホールで行われた。
遺体は火葬場で焼かれ、骨壺に収められた。
家に持ち帰り、保の父や母も眠る菩提寺に納骨した。

アパートに残された息子の遺品の処分だけが残った。
専門業者に頼んで、出向かなくても処分できる方法もあると思ったが、再び上京することにした。

管理会社で鍵を借り、二階建てのアパートの階段を上がっていく。
二階の一番端に息子が住んでいた部屋がある。

鍵を開けながら、ふと、息子がこの場所に帰ってくる姿を思い浮かべる。
それはいつの息子の姿だったのだろうか。
安置所で目をつむった最後の息子の姿だったのか、それとも一緒に暮していた頃の姿だったのだろうか。
いずれにしても想像の中なので、確定はできなかった。
むしろ、このようなことを思い浮かべる自分を意外に思い、打ち消すように鍵を回し、扉を引く。

息子の部屋は、静けさに後ずさりするくらい、ガランとしていた。
住んでいた男が不在なのはもちろんだが、一切の物がきちんと片付けられていた。
靴も食器も衣類も。
棚には本やCD、DVDなどが几帳面に並べられていた。
この性格は、保自身に思い当たらない。
むしろ、元妻を由来とする性質だ。

妻とはその性質が、合わなかった。
価値観の違いが、彼女を度々失望させたし、保自身も我慢できなく、怒りを行動に移した。
息子の前で彼女に手をあげ、家族間の会話をなくした。

なぜ別れるときに、何としてでも息子を母親の方に押し付けなかったのだろう。
それは後悔しても戻らない出来事だった。

片付けを始め、しばらく経った頃、呼び鈴が鳴る。
保は戸惑うが、無視することにする。
住人だった男の現在を知らないセールスか何かの用件だろう。

諦めて帰ったと思ったところで、また呼び鈴が鳴る。

開けると、ひとりの女性がいた。

しばらく口を開かなかったので、

「どちらさま」と話しかけた。

「大和さんの友人です」

清楚な感じのする女性で、元の妻の若かった頃を思い起こしたが、すぐに打ち消した。

「あなたは」と、女性の方から問いかけられる。

「大和の父親です」
「はじめまして。宮本由里子と言います」

丁寧に頭を下げる。
その様子はやはり元の妻そっくりだった。

「この度はご愁傷さまでした」

保は息子の大和が死んで、初めて彼自身に対し、悔やみの言葉を聞いた気がした。
職場でも警察でも葬儀社でも言われたが、それとは違う。

由里子は、かつて大和と交際していたのだと言う。
死んだことを知ったが、連絡先がわからなかったので、一緒に暮していたこのアパートに来たのだと言う。

「片付け、手伝います」

由里子はそう言うと、部屋の中に入ってくる。

「これ、どうするんですか?」

並べられた大和の遺品を見て、言う。

「全部捨てようと思う」
「そうですね。もう、必要ないですよね」

保はちょうど机の引き出しを開け、筆記用具の整理をしていた。
ボールペンや鉛筆、シャープペンシルや万年筆、いろいろな種類の筆記用具をまとめて、机の上に置いていた。

由里子は、そのうちの一本のボールペンを取り上げ、見つめる。

「これでいつも書いていました」

息子の大和は、いつも何かしらの文章を書いていた。
保は、彼が何のために文章を書いていたのか知らない。
手紙なのか、日記なのか、詩だったのか。
俳句や短歌のようなものだったのか、小説のような長いものだったのか。
パソコンに向かっていることもあったが、記憶の多くは、筆記用具を手に、紙に書きつけていた姿だ。

その時ばかりは声をかけられない気がした。
そして、息子に対し、自分とは違うタイプの人間なのだと思うのだ。
棚に並んだ書物だって一通りながめたが、本を読む習慣のない保には、ピンとくるものはどれもなかった。
ノートの束がたくさんあったが、きっとそこに何かを書きつけていたのだろう。

由里子はボールペンを手に、目で何かを探している。
ノートの束を見つけると、その内の一冊を引き出して、左右に開く。
そこは、文字でびっしり埋められていた。
由里子は目を寄せると、むさぼるように読んでいる。
その間、保は片付ける手をとめ、読み続ける由里子の横顔を見ていた。
元の妻が本を読んでいる姿を思い起こす。

由里子は、突然、目を上げ、ノートをぱたんと閉じる。
そして、ノートの表紙の空白に、ボールペンの先を走らせる。

「インクがない」

何度もペン先をノートに押し付けながら、由里子は言う。

「あんなに大切に使っていたのに」

何度も何度も繰り返し、強い筆圧で押し付けられた跡が残る。

いつのまにか、由里子の目から涙があふれていた。

「私のせいなんです。死んだのは」

由里子は机に突っ伏して、泣いている。

「私のせいだ。大和が死んだのは」

保は、自らを責める由里子を慰めるように言う。

しかし、保は本当に自分のせいで息子は死んだのだと思っていた。
職場で大和が死んだ電話を受けた時から、ずっと考えていた。

母親と一緒に暮らさせていれば。
もっとましな会話が出来ていれば。
そもそも、結婚していなければ。
大和をこの世に誕生させていなければ‥‥‥。

「このペン、私がもらっていいですか?」

由里子が、泣きはらした顔を上げ、手にしたペンを掲げて、言う。

「インク、入れ替えて、使います」
「もちろん、いいさ」

保は、絞り出すように答えた。 







 

路上演劇祭Japan in 浜松2023開催のお知らせ

カテゴリー │演劇

僕も参加する路上演劇祭Japan in 浜松2023のお知らせです!!

日時:6月10日(土)10時~18時頃
場所:砂山銀座サザンクロス商店街

観覧無料

ぜひお越しください!
グアナファト大学大学付属サラマンカ高校日本文化クラブは、リモートでの参加となります。

路上演劇祭Japan浜松ブログ
http://rojo-hamamatsu.blogspot.com/

路上演劇祭JapanTou-Tubeチャンネル
https://www.youtube.com/@japanin3420












 

滞りがちのブログ

カテゴリー │いろいろ見た

いろいろみたりしているが、ブログは滞っている。

みたもの


2月25日(土)シネマe~raにて「雪道」 

3月18日(土)穂の国とよはし芸術劇場PLATにて、MONO「なるべく派手な服を着る」

3月19日(日)袋井メロープラザ 多機能ホールにて、市民劇団メロー「君が描いた世界が見たい」

3月21日(火祝)鴨江アートセンター206にて、杉浦麻友美・夏秋文彦「0番目の即興的予兆」

3月25日(土)シネマe~raにて「コンパートメントNo.6」

3月26日(日)劇団からっかぜアトリエにて、劇団からっかぜ「夏の庭」

4月1日(土)シネマe~raにて「イ二シェリン島の精霊」

4月18日(火)静岡文化芸術大学総合演習室にて、演劇活動サークルecru「煙たい奴ら」

4月23日(日)シネマe~raにて「生きる」

4月29日(土祝)静岡芸術劇場にて「アインシュタインの夢」
          静岡県舞台芸術公園 野外劇場「有度」にて「ハムレット(どうしても!)」
          紅葉山庭園前広場特設会場にて「天守物語」

5月3日(水祝)TOHOシネマズ浜北にて「シン・仮面ライダー」

5月4日(木祝)静岡市で「ストレンジシード静岡」
          
5月5日(金祝)豊橋市で「大道芸 in とよはし」

6月10日(土)砂山銀座サザンクロス商店街にて、路上演劇祭Japan in 浜松2023が開催される。
時間は10時から18時頃まで。入場無料。僕も参加する。

たぶん、それが終わったら、書けなかった感想をいくつか書くだろう。
写真は撮ってある。
このように。
誰が出ているかわからなかったので、TOHOシネマズで初めて1200円のパンフレットを買った。
TOHOウェンズディで観たので、鑑賞料金と同じ金額だった。
浜松まつり初日だが、ポップコーン売り場はとても混んでいた。