竹嶋賢一音楽会「二人 vol.2」にて「しゃべらぬダンサー」を演じた

テトラ

2024年07月09日 20:45

先月のお話。

6月16日(日)14時~ 鴨江アートセンター
竹嶋賢一音楽会「二人 vol.2」 前奏曲にて「しゃべらぬダンサー」を演じた。

前週の8日には有楽街で路上演劇祭があった。
2週連続での違う演目の上演をなぜ引き受けたんだろう?

そんな疑問を抱きながら、合わせるのは当日という即興舞台に臨む。
もちろん言葉も即興という勇気も自信もないので、台本はしっかり用意する。

詩と呼ばれる時もあるが、僕は戯曲を書いているつもりなので、
ひとりで行うことで結果的にモノローグ芝居となっていることに最近気が付いた。

今回は二人のギター演奏と共演。
終わってしまうとやっている本人はあんまり覚えていない。
どんな音が奏でられたのか。
見聞きしてくださった方に委ねるしかない。

タイトルは「しゃべらぬダンサー」と言う。
今までダンサーの方とコラボしたが、今回はそうでなかったので、
逆にこの題材にしたのかもしれない。

ダンサーと一緒だと、あまりに《直接的》すぎるもんね。
「こんなんじゃない」と言われるかもしれないし。

そういえば、映画は6月1日に監督と俳優が舞台挨拶した「辰巳」と7月1日に「関心領域」を観た。


《二人 vol.2 プログラム》

1)前奏曲 細田茂美(G) 竹嶋賢一(G) 寺田景一(語り)

2)ギターとダンスの為に 杉浦麻友美(Dn) 野中風花(Dn) 細田茂美(G) 竹嶋賢一(G)

3)即興的な唄 岡野晶(P・Vo・Aco) 細田茂美(G) 竹嶋賢一(B・Vc・G) 加茂雄暉(As・Tl)

4)即興的な即興 フィナーレ


※写真は3)即興的な唄より







しゃべらぬダンサー
                         寺田景一



《戯曲》

しゃべらないダンサーが、北へ向かうと言う。
南に住む人は、北へ向かうのだと言われている。
北には山がある。
山には魔物が住んでいると言われている。
魔物がいると知りながら、北へと向かう旅に出る。
北へ、北へと。
ノース。
草履を、荒れた地べたで擦り減らしながら。
雨風にさらされた着物は濡れ、木々や崖で擦り切れる。
照らす太陽は熱く、ダンサーの水分を奪う。

筋肉は動くのだろうか。
関節は。
神経は。
私の脳は。
意思。
意思。
意思。
そもそも、踊り始めようと思ったのはなぜなのか?
それは、果たしていつのことだったのか?
その時、私に何が起こった?

生まれて、気がついた時には踊っていた。
親が言うには、生まれた瞬間から踊っていたそうだ。
「おギャー、おギャー」と踊る。
踊る子供。

テレビのプロレスで、レスラーの入場曲に合わせて踊り、お父さんに叱られた。
ほうきで掃除をするお母さんの横で踊り、「ジャマ」と、蹴飛ばされた。
三半規管が弱い、お兄ちゃんの傍でクルクル回っていたら、
お兄ちゃんがぶっ倒れた。
「お兄ちゃんの前で踊るな」が「嘘をつかない」と同様、我が家のルール。
私の家は、か弱いお兄ちゃんを中心に回っていた。

踊る子は、しゃべらない。
しゃべらぬダンサー。
口があく前に、身体が動く。
言葉より大事なことがある、なんてぼやいてみるけど、
ホントはしゃべりたくないだけ。
踊っているのが、断然楽しいのだ。
踊るためには、嘘もつく。
お兄ちゃんも、何回もぶっ倒れる。

家を出た勢いで、日本を飛び出した。
お兄ちゃんと会う機会がなくなった。
でも、私は知っている。
お兄ちゃんが、私の踊りが何より好きだったこと。
お兄ちゃんに喜んでもらうために、私は踊っていた。

どこででも踊る。
誰かがいても踊る。
誰もいなくても踊る。
音がなくても踊る。
空気の中で踊る。
エアー。
身体にエアーがまとわりつく。
私の衣服であるかのように。

私はこうして北へ向かっているが、誰にも出会わない。
それでもかまわない。
私は踊っている。
踊り、踊り、踊っている。

果たして、山には魔物が現れたのだろうか。
魔物が私に迫り来る。
鋭い爪が私を切り裂き、
巨大な口に飲み込まれていく。
擦り減った草履が脱げ、着物が剥がされても、
手足がちぎれ、
血が流れ、
肉が溶け、
骨が落ち、
たとえ魂だけになったとしても、
私はかまわない。
踊り続ける。

しゃべらぬダンサーは、ふと気がつく。
そういえば、旅立ってから、南を向いていない。
そうだ。
私はこれまで足を止め、うしろを振り返ったことがなかった。
しゃべらぬダンサーが初めて、南を向く。
来た道を。
南を。
サウス。

そこには、海が差し迫っていた。
ざぷーん、ざぷーん。
波打つ大海が。
足元に泡立った海水が浸る。
濡れた。
疲れ、傷ついた、私のつま先に。
傷跡に、沁みて、癒す。

ダンサーはステップを踏む。
水の重さと戯れるように。
まるで水の一部になったように。
ウォーター。
ダンサー。




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