浜松市福祉交流センターで劇団からっかぜ「蠅取り紙~山田家の5人兄妹」を観た

カテゴリー │演劇

11月25日(土)18時30分~。
その日は路上演劇祭にエントリーする「砂山劇場」の活動があり、
砂山町の街歩きをした。
終了後やはり歩いて、成子町の福祉交流センターへ向かった。

演目の「蠅取り紙」は、飯島早苗と鈴木裕美の共作。
2人が所属する自転車キンクリートとして1994年に初演、
自転車キンクリートSTOREとして、1996年、1999年の2回上演されている。

1987年に青山円形劇場で「リンゴ畑のマーティン・ピピン」という自転車キンクリートの作品を観て以来、
自宅に公演案内のDMが届いていた。
いつまで届いていたかは忘れてしまったが、
数年の間は届き、いつしか届かなくなった。
公演に行ったのは東京に住んでいたその時だけである。

以前劇団からっかぜで取り上げた「法王庁の避妊法」も自転車キンクリートにより上演され、
飯島早苗さんと鈴木裕美さんにより戯曲が書かれているがこちらは原作の小説がある。
こちらも「蠅取り紙」と同じく初演は1994年。
ちなみに「蠅取り紙」が7月で「法王庁の避妊法」が12月。
自身での再演はもとより全国各地でいろいろな劇団が、
しかも今でも上演されている戯曲である。

自転車キンクリートは1982年に日本女子大学の学生6名により結成された。
その頃の僕には、抜群に印象に残る劇団名だと感じられた。
もちろん今回の劇団からっかぜの公演には自転車キンクリートは全く関係ない。

僕ははじめて「蠅取り紙」を観たが、
仕掛けがうまいなあと思った。
前半の終盤まで、
この芝居はいったい何を伝えたいのかわからない。
その時間を支えるのは、単純に言うと、
演技力なのかもしれない。

ハワイ旅行へ行くという両親を見送るために
5人の兄妹が集結させられる。
自宅に住む長女、次女、次男。
それに婿養子に行った長男、結婚し家を出た三女。

それぞれが両親というより主に母を心配させている種があるという設定。
母がハワイに発つと、
自宅ではそれら心配させごとを披露しあうのが前半になる。
だからダメな部分のみが舞台上に充満する。

次女の夫が登場するが、
前妻がいたのだが、
次女と出会い、
略奪愛の末、離婚し、
次女と結婚した男という設定。
にも関わらず元の妻ひとみちゃんに
今も連絡を取っている。
その上、長男の高校時代の同級生である。

そんなダメな人たちのダメさの発表会を観客たちは
他人事としてただただ楽しんでいればいい。

ところが、電話が1本かかってくることにより様相は変わり始める。
母が、渡航中盲腸にかかり、緊急手術したというのだ。
兄妹たちは、盲腸がいかに死亡率が低くて安心できる病気かについて
議論する。
手術は成功したが、麻酔がききすぎ、
意識が戻っていないというのだ。
一同は、ここでは不安感はない。
じきに意識は戻るにちがいない。

そこで突然母が家に帰ってくる。
兄妹たちは混乱し、
電話で入院中のアメリカの病院に電話をし、
母の体の存在を確認し
今ここにいる母の姿は幽霊もしくは意識のみが
視認できる姿形をもって戻ってきたものだと確信する。

ここからとたんに舞台は転がり始める。
それぞれのダメさはそれぞれの中だけでよかった心配させごとが
母をこんな状況にさせた責任問題に発展し、
より深くえぐり合う展開となる。

そこで得る効果は、
自分をよく知ることである。
いいのがれをし、
他者に責任転嫁していたことを
自分事としてとらえ、
時には反省し、
ダメさを認める。

観客はここで、
前半は他人事として笑っていたものを
少し自分事としてもとらえる。

兄妹たちは
三女の夫が発した
昔聞いた中国の魏呉蜀の三国時代だか何だかわからない逸話話から、
母の心配事をなくさせ、楽しませることが
この事態を脱却する唯一の方法と妄信し、
行動に移すことに一致団結する。

母においしいものを食べ、大いに楽しんでもらい、
安心して元の体に無事帰ってもらおう。

食後、家族は揃って
ダウトというトランプをやっている。
家族団らんである。
母は楽しいのか饒舌で、
子供たち5人の思い出話を語りだす。
その話のひとつが
蠅取り紙の話である。

ここでようやくタイトルと結びつく。
ここまではまったくタイトル「蠅取り紙」の意味はわからなかった。
内容と直結するタイトルではなく、
芝居全体の雰囲気を象徴するふんわりしたタイトルであることを知る。
予想するが、戯曲を書き終わったあとにつけたタイトルではないだろうか。

山田家では蠅取り紙であったが、
それぞれの家庭で異なるだろう。
自分の家では何だっただろう。
一瞬考えた。

5人は意図せず、
自らの未来を明確に整理し、
決意を語りだす。
結果それは心配をさせていると思っていた
母への安心宣言となる。

そして舞台は終幕へ向かう。

浜松市福祉交流センターで劇団からっかぜ「蠅取り紙~山田家の5人兄妹」を観た



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