静岡文化芸術大学西ギャラリーで発光体と海「うお座の恋人」を観た

カテゴリー │演劇

11月28日(水)18時30分~

「発光体と海」の旗揚げ演劇公演とある。
旗揚げ公演は個人的に大歓迎である。
やりたいことはやるべきである。
旗揚げ公演には理由がある。
なぜやろうとしたのか。
何をやろうとしたのか。
誰とやろうとしたのか。

旗揚げ公演は今後の指針となる。
成功にしろ失敗にしろ
やろうとしたことが折り込まれている。

そもそも何が成功で何が失敗かは
判断するのは難しいものなのだが。

夜、布団が敷かれた
一人暮らしの女子、内海(名前)の部屋では
女友達同士でピロートークが交わされている。

いきなり
「生理が来ない」
と遊びに来ている岬(名前)が言う。

男遊びが盛んらしい岬は
妊娠している状況なのではないか
ということをしきりに内海にほのめかす。
用意周到に
妊娠検査薬まで持参している。

終わりのないピロートークは
内海の心を揺るがせ、
岬に問い詰められ、
内海は自分は男性経験がないということまで
白状させられる。

岬は言う。
身ごもることができるのは、
わたしたち「女」だけなのである
ということ。

ここで、「男」と確実に差別化する。
ある意味、身ごもることができる、
ということを特権化している。

「男」は偉そう言っていても
身ごもることさえできない。

「女」であっても
彼氏もいなくて、
男性経験もないなんて、
「女」でいる価値もない。
目の前の友人をどこか
そんな視点で見ている。

まるで自らが
生物学的に優れている
とでもいうように。

腹の中に芽生えた
新しい命がたゆたう羊水を
地球の母ともいえる海の海水になぞらえる。
細かい数字はわからないようだが
塩分の濃度が似通っているらしい。
どこまでも自らを肯定し
神格化したいようだ。

そんな鼻持ちならない心理状況に
陥っているのには当然訳がある。
それが語られるのが
この芝居の骨子だ。

終演後、パンフレットのタイトルをみて思った。
「うお座の恋人」。
ああ、そうか。
ふられた男が忘れられない
ちょっとみっともなくて、
でも、ちょっとかわいらしい
ひとりの女の子のお話なんだ。

そして、女の友情。
友情は対等の中で成り立つとは限らない。
小さな優劣を競う戦いの中で
育まれるともいえる。
例えば
どちらが「経験」したのが早いか?とか。
どちらかが、優位のように見えても、
差し引きすると結構ゼロだったりするのだ。

劇中、登場人物たちが
大学に入学して二年目であることが
セリフの中で伝えられる。
旗揚げ公演であるこの作品に関わる人たちは
同年代ではないだろうか。

作品はフィクション(作り物)ではあるが、
自分たち自身と当然のように関係がある。

大学生はいずれ卒業するという運命がある。
学内で生まれた劇団も
一代で終わるのか、
それとも後輩に引き継がれ、
メンバーが変わり存続していくのか。

統計上は、
引き継がれるのはなかなか難しく、
立ち上げメンバーの卒業により
劇団は消滅する。

といってもそれぞれの人生はこれからも
ずっと続くので、
どこかで演劇らしいことも
続けていくのかもしれない。






 

浜北文化センター大ホールで「第42回静岡県高等学校演劇研究大会」を観た

カテゴリー │演劇

高校野球の夏の甲子園大会が、都道府県予選→全国大会、と進むように
静岡県の高校生の演劇部の大会は、静岡県東部・中部・西部各地区大会→静岡県大会→関東大会→全国大会、と進む。
その中の、静岡県大会を観た。

年1回の開催なので、静岡県内のどこかで行われるのだが、
今年は浜松市浜北区の浜北文化センター大ホールで行われた。
参加校の中で最も遠方なのは、伊豆の国市にある韮山高校である。

11月24日と25日の2日間で12校が参加した。
そのうち、都合もあり、観ることができたのは以下。

11月24日(土)
9:45~10:45 浜松開誠館 「えんげき部のはなし」

11月25日(日)
9:30~10:30 浜松西 「銀河のかたすみで」
10:45~11:45 韮山 「遠い声」
13:45~14:45 静岡城北 「age17@h30.com」
15:00~16:00 三島南 「天国(うえ)を向いて歩こう」
16:15~17:15 磐田東 「硬貨が落ちた隙間の向こう」

その他、
三島北、吉原工業、浜松聖星、静岡、掛川西、静岡理工科大学星陵
が上演された。

25日、全校の上演が終わった後、
審査員3名の講評、
その後、審査発表・表彰・閉会式
時間は19時を過ぎていた。

会場を出て、駐車場へ向かうと
学校のマイクロバスやおそらく地元の電鉄会社のチャーターバスが並んでいた。
最も遠方の韮山高校も帰る準備が整ったら、
バスに乗り込んで、帰路を急ぐことだろう。

翌日は月曜日である。
朝は早く起きて、
いつものように学校に向かうことだろう。

最優秀賞1校(静岡城北)と
優秀賞4校のうち推薦された1校(静岡理工科大学星陵)の計2校が
来年1月に開かれる関東大会に進む。

「平成のおわり」をモチーフにした
静岡城北の作品の作者である加藤剛史さんは
はままつ演劇・人形劇フェスティバルや路上演劇祭でも
お世話になった人と同姓同名だが、
作風から推測するに、おそらく彼だろう。

もし彼だったら「おめでとう」。
ちがっていたら「知らない人、おめでとう」。

個人的には25日の途中かなり長い時間
スマホが紛失状態だった。
舞台上を観ながら
頭の中は「・・・スマホはどこ?」
それはそれは、
最初に座った座席の下に見つけた時の
安堵感と言ったら。

本番に立ち向かい、
真剣勝負の悲喜こもごもの2日間を過ごした
高校生たちの心持ちと比べようはないが。






 

space-Kで演劇集団浜松キッド「成仏しろよ!」を観た

カテゴリー │演劇

11月18日(日)14時~
演劇集団浜松キッド「成仏しろよ!」

作・演出の石牧孟さんと以前話をした時、
どんな芝居が好き?という質問に
「コメディー」という答えが返ってきた。

第44回公演という
長い歴史を持つ演劇集団浜松キッドであるが、
石牧さんが作・演出を担当するのはまだ数作目ではないだろうか。

集団が今まで続けて来た作風ととてもマッチしている。
だから役者たちも演じやすそうで
りきむことなく、
いわゆる楽しんで演技しているように見える。

それが観客もリラックスさせ、
自然と笑いも生む。
そのように戯曲が書かれているから
観客は笑うのだ。

主人公が引っ越してきたアパートには
成仏できない幽霊がいて、
主人公にしか見えない。
この辺りは“鉄板”の状況設定。
だから観客は安心して、次の展開に進められる。
引っ越し早々、困る主人公に
幽霊から、成仏を手伝ってほしい、という目的が提示される。
主人公は成仏すれば、部屋から出て行くので、
手伝わざるを得ない。
その目的に従って芝居は展開する。

次々に登場する人たちは
誰もが個性的である。
気弱なゆえにいろいろなことがうまくいかない酒好きな隣の住人。
ガス会社に勤めながら霊視ができる装着器具を開発している大阪弁の男。
ギャンブル大好きな上に酒はうわばみな商魂たくましい霊媒師の女。

幽霊が成仏できない理由が
主人公の思いともつながり
成仏するという目的を達するのだが、
その理由が少々気恥しい。
特に演劇をやっている人にとっては
であるが。






 

勤労会館Uホールで行われた「はままつ演劇オムニバス」を手伝った

カテゴリー │演劇

11月11日(日)12時30分から
絡繰機械’S「この先、ディスターブ」
FOX WORKS「花しずか」
劇団Tips「十色夜景」
の3本を各2回上演。

2回目の上演時、スタッフとして非常口係を担当した。
上演を拝見させていただいたが、
あくまでもスタッフの立場としてである。
感想は心にとどめる。

その日は、11時30分から来年の路上演劇祭のための実行委員会を兼ねた
街歩きを行っていた。
ソラモでは、障害者施設で作成した授産製品の販売や発表等がある
スマイルフェスタが行われていた。
肴町商店街あたりでは、まるたま市が行われていた。
砂山銀座サザンクロス商店街では、ほしの市が行われていた。

こちらは足を運べなかったが、
アクト中央通りでは餃子祭りが行われた。
木下惠介記念館では昨日に続いて、
はままつ映画祭が行われた。

イベント真っ盛りである。



 

なゆた浜北ホールでMUNA-POCKET COFFEEHOUSE「#教室は繰り返す」を観た

カテゴリー │演劇

11月10日(土)19時~

会場に入ると、
ひな壇の客席の前に
たくさんの机と椅子が並べられている。

誰の記憶にもある
“あの”教室の風景。
観客たちに背を向けて、椅子に座るのは
あらかじめ依頼された数人の観客の他、
卒業真近の中学3年生や担任の先生、
なぜか軍人や大人も混じっている。
そこは単に閉ざされた教室ではない。
そんなメッセージが提示される。

卒業にあたって
甘酸っぱい感傷はない。
熱すぎる生徒思いの女教師の
話に聞く耳を持つ者はおらず、
生徒間の感情も全くつながらず
すれ違ったまま。
先生は教壇に立ち続けることができない。
結果、生徒たちと同じ椅子に座る。

突然現れる
もうひとつの世界。
大人たちが演じるのは
まさにここは開戦前夜。
中学の教室と戦争前夜が並列に語られる。

ほどなく、1年前の新学期に引き戻される。
熱すぎる女教師は生徒たちに受け入れられず、
“東京のような”ところから転校してきた生徒も
それぞれが自己主張するばかりの生徒の中で
受け入れられようもない。

ラップという言葉があえて提案される。
ラップで語れと指定される。
ラップというと演劇では、ままごとの柴幸男さんを思い起こす。
僕は柴さんはラップと言うより、合唱のように思う。
調和なのだ。

ラップについて、誤解を恐れず言うが、
僕のイメージでは
周りに不平不満を抱いた不良たちが、
言いたい言葉を
リズムに乗せて吐きだすこと。
怒りであり、叫びである。

中学生たちは
自分自身の欲求が常に報われず、
草刈りしたいだの
ウナギ食べたいだの
誰かが好きだなどという。
好かれるために可愛いボールペンは必需品だし、
班替えは学級内の立場の確保の為には
一大事だ。
誰かを認められないし、
誰かに認めてほしい。
ひとりっきりになりたくないし、
ひとりっきりになりたい気もする。

生徒たちはそれぞれの欲求が単純化されている。
欲求はリズムに乗せたラップで表現される。
これは自分だけの歌を歌ったシンガ-のように、
自己解放した形で伝えられる。
欲求を阻む障害が明確となり、
学級内の構図はあきらかになる。

それが客席から見ると
机と椅子が整然と並べられた様子は
まるで何かのボードゲームのようで
演じる人たちはまるで盤上の駒のように見える。

そして、時々、1回のゲームがチャラになったかのように
唐突に席替えが行われる。

中学校の教室と軍人がいる2つの世界の融合は、
終盤に明かされる。
そこで、観客は教室が、
“日本のようなもの”を重ね合わせていたことを知る。

演劇では観客たちとともに
登場人物の中に
ひとりの体現者を設定している。
常に一番後ろの席で
教室全体をながめていた勇子である。
途中から、
観客席の後ろでセリフを発する方法で
その意味を伝える。

結末はハッピーエンドではない。
世界は繰り返されるのだ。
でも、勇子は誰もが記憶する
“あの”教室を懐かしむ。
それは肯定のまなざしで。

タイトルの前に「#(ハッシュタグ)」がついている。
どういう意味なのだろうか。






 

木下惠介記念館で「はままつ映画祭2018」を観た

カテゴリー │映画

11月10日(土)
10時30分からオープニング上映が2本。
後藤美波さんの「ブレイカーズ」と
豊島圭介さんの「未来のあたし」。
どちらも浜松市出身で、
「未来のあたし」に出演している欅坂46の織田奈那さんも浜松市出身。

混雑が予想されるとのことで、
9時30分から整理券が配布されることが事前通知。

行ってみたら、
高校の同級生がいた。
驚いたことに
後藤美波さんは娘さんだった。
東京大学を卒業後、
コロンビア大学大学院フィルムスクールに留学し、
現在はニューヨーク在住。

豊島圭介さんも
東京大学出身で、
自主映画から始まったが、
商業映画もずいぶん撮っている。
今回の作品は、
浜松北高校の同窓会で同窓生たちに会ったことをきっかけに
企画されたそうだ。
撮影時現役の浜松北高校生も参加されている。

その後、公募作品から選ばれた
「ひこうき雲」
「into the Blue」
「立場なき人たち」
「幸福の目」
「小世界」
「なみぎわ」
を観た。

語り過ぎてもいけない
語らなさ過ぎてもいけない
そんなことを思った。

語り過ぎは、
こちらの思考を停止させるし、
語らなさすぎは
こちらの思考に頼りすぎている。

映画は意図あるカットの集合体である。
意図が感じられないカットがあると
途端に流れが途切れてしまう。

19時から、浜北区にある
なゆた浜北ホールで演劇公演を観劇するため、
まだ上映作品はあったが、
会場をあとにした。






 

はままつ演劇フェスティバル2018 アフタートーク

カテゴリー │演劇

昨日投稿した劇団からっかぜ「二人の長い影」であるが、
挿入した写真は、会場であるアトリエに貼ってあったポスターを撮影した。
雨に濡れて、染みているのかと思い、
じっくり見たら、違った。
デザインだった。
登場人物である
慎吾と久美子(モデルは出演者と思われる)
が互いに受話器を持ち、

慎吾 「久美子ちゃんか?」
久美子 「どちらへおかけですか?」

と言う、対話をしているが、
二人の表面に斜めに、
筋が入っている。
これは、彫刻刀の跡である。
版画だ。

A4判のチラシと比較する。
こちらには、斜めの彫り跡はない。
また、和紙のようなデザイン加工をした
背景もポスターとチラシでは処理の方法が異なる。

ポスターとチラシのデザインを変えているのだ。
会場に来て、ポスターを見て発見した。

この日は10時30分からの公演を観て、
14時からの鴨江アートセンターでのSPAC出張劇場「熊」を観て、
再び西区篠原町の劇団からっかぜアトリエに戻ってきた。
15時からの公演の後、
はままつ演劇フェスティバル2018の劇評賞の応募を促す
アフタートークが開かれるからだ。

登壇者は
劇評賞の審査委員でもある静岡文化芸術大学理事の高田和文さん、
自主公演審査委員でもある松本俊一さん、
「二人の長い影」の演出、布施佑一郎さんの3名。

スタッフとして、入れ替えの駐車場係を行い、
少し遅れて、会場に入った。
劇団からっかぜのホームと言うこともあり、
主宰者でもある布施さんは
顔を知るお客さんや出演者たちをうまく活用して、
参加者たちの理解を広げていた。

写真はA4版の公演チラシ。
前回投稿のポスターと比較してみてください。






 

からっかぜアトリエで劇団からっかぜ「二人の長い影」を観た

カテゴリー │演劇

11月4日(日)10時30分~

午前中から演劇を観る機会はそんなにない。
14時開演の他の公演を観るために、
当初15時開演の回を観る予定を10時30分開演に変えた。

昼公演をマチネという。
夜公演をソワレという。
どちらもフランス語で、
マチネは朝・午前中のこと。
ソワレは夕方・日が暮れた後の時間を指すそうだ。
でもマチネは多くは昼間でも午後に行われる。

午前中から行われるのは
歌舞伎や寄席やストリップくらいかもしれない。
観客は、
観るためだけに開演時間に合わせて会場に向かう。
着ていく服に悩んだり、
髪型が決まらないのは自己責任だ。
演じる側は、
メイクをし、衣装を着る以外の準備も万端整えて、
開演時間に舞台に立つ。

観客は、ほぼ埋まっていた。
昼間の公演と夜の公演を比べると
得てして昼間の方が客の反応がいいと
ネットの記事に書かれていた。
昼間は睡眠をとったあとなので元気、
夜は一日活動したので疲れている
ということかと思うが、
それは当てはまるかもしれない。

客席は何となく
活気があるように思えた。
いや、年齢層が高いと午前中が一番元気なのか。

「二人の長い影」は
テレビドラマの数々の名作で知られる脚本家、山田太一さんの作品。
映画の脚本や小説、エッセイも書き、
舞台の戯曲も何本も書かれている。

先ずは、「二人の長い影」はホームドラマである。
山田さんの代表作であるドラマ「岸辺のアルバム」や「早春スケッチブック」のように。
2つの家庭が描かれる。
坂崎家と小林家。
坂崎家は軽い脳梗塞で右手が不自由な慎吾がひとり暮らしをしている。
妻に先立たれ、娘がたまに面倒を見に来る。
そして介護士の世話になっている。

小林家は老夫婦の二人暮らしである。
夫である栄一は不動産屋を息子に継がせ、
悠々自適な生活を送っている。
妻、久美が家にかかってきた1本の電話から、
長く生きてきた今まで、
封印してきた記憶を呼び起こすことになる。

長く生きてきた今を象徴する終活の一環で
近所の人たちと行っている古着の整理の仲間である
飯沢が何度か言う。
「戦争のこと、書き残していかなきゃだめよ」

その言葉に答えるかのように
慎吾と久美(元々は久美子)の過去の姿が語り、
現在の二人の再会物語と重なりあい、
観客の前につまびらかにされる。

ホームドラマは
戦争を背景にした悲恋物語に発展する。
それは作者が元々書きたかったことというより、
この戯曲が書かれることになったきっかけによる。

劇団民藝の女優、南風洋子さんから、
満州から引き揚げてきた自身の体験を
戯曲にしてほしいという依頼を受けたことによる。

2年間書くことはなかったが、
常に頭の片隅にあり、
中村登美枝さんの手記「生きて帰れよ」と出会い、、
着想を得て、書き上げることができたそうである。

そして、劇団民藝により
久美役を南風さん、
過去の久美子役を
南風さんの実の娘さん、若杉民さんが演じ、
上演された。

若い慎吾と久美子のセリフは
まるで書き言葉である。
モノローグで事実がつらつらと連ねられる。

そして、現代のホームドラマが
時を超え、歴史劇の様相を帯びる。
それは日本の戦後の“叙事詩”である。

老いらくの恋のさや当ても予感させた
2人の再会は、
年齢に応じた理由で、
多くの同席者も含んだ形で
果たされる。

まさしくそれは
山田太一さんらしい
ホームドラマの結末だった。






 

鴨江アートセンターでSPAC出張劇場 チェーホフ『熊』を観た

カテゴリー │演劇

11月4日(日)14時~

この日は午前中にも1本演劇を観た。
時間が合えば、静岡文化芸術大学で開かれている
碧風祭でも演劇公演を観ようと思ったが、
バタバタになりそうだったので、行くのをあきらめた。

静岡県舞台芸術センターSPACの出張劇場。
出張劇場と銘打つのは、
県庁所在地である静岡市内に静岡芸術劇場や舞台芸術センターなど
SPACの拠点があるからだ。
そこを離れて出向くので出張と言う。
横に長い静岡県の東にも西にも出向くのだろう。

生の芸術である演劇は
距離というのは大きな障害となる。
東京と地方では公演数をはじめ、演劇環境の格差は
客観的に見て、相当なものだろう。
例えば毎日のように歌舞伎を観れるとか。
劇場や劇団が多いとか。

静岡に公立の劇団を置くことは
東京と地方という比較では意味があるが、
場所が決まった時点で、
格差の構造は生じる。

例えば静岡市と浜松市。
僕は静岡市に観劇に出向くとき、
距離を感じながら向かう。

チェーホフは長編戯曲では
それぞれ四幕物の「かもめ」「三人姉妹」「桜の園」などで知られる。
「熊」は一幕物の中編戯曲である。
今回の上演時間は約50分。
登場人物は3人。
まさに出張公演に適したサイズ感。
そして、生演奏が彩る。

夫を亡くし、家に閉じこもっていた女が
借金取りに来た
まるで野蛮な熊のような男の出現から、
心境が変わっていく。
刻々と変わる状況は目を離すことができず
展開に無駄がない。

互いにへこんでいた両者が
相容れず罵り合い、
ピストルを持ち出しての決闘に発展するが・・・。
最後はまさかというか、観客がのぞむオチで幕を閉じる。

両者の間で執事?召使?は、
2人の心境に影響を与えない
ニュートラルな立場で立ち回る。
但し、そのリアクションは舞台を彩り、
喜劇性を増す。
こういう役は自由度が高い。






 

万年橋パークビル8Fで第2回浜松Open Art 「音楽ライブ at 万年橋」を観た

カテゴリー │いろいろ見た

11月3日(土)17時~

浜松Open Artは“アートは生活の中に”というコンセプトで
10月27日から11月4日まで
浜松街中のゆりのき通りや肴町通りや浜松城公演等で行われている。

絵や彫刻や書や造形や音楽やパフォーマンス等アート全般が点在的に披露される。
大学等でも文化祭真っ盛りだ。

芸術の秋とはよく言ったものだ。
各地で表現したい人たちの存在が一気にお披露目される時期なのだろう。
夏は大学生は夏休みだし、
大人だって、夏は暑い。
演者だけでなく客は暑い。

暑さも和らぎ、
ちょうどいい準備の期間も経て、
10月終わりから11月初めにかけて一気に!!
タイミングいいなあ。
そして11月3日は文化の日。
天気がよければ野外だってへいっちゃらだ。

先週終わった日本のハロウィンも表現のひとつであろうか。
秋の収穫を祝う宗教的な意味合いのハロウィンとは
まったく形は変わっているが、
人は“何かを表したい”のだろう。
僕のブログだって同様だ。

スポーツの秋、
食欲の秋、
行楽の秋、
考えれば、それぞれのジャンルで、“〇〇の秋”の取り合いだ。
取り合われて大変なのはお客さんかもしれない。

以下は当日演じられたプログラム。
どなたももちろん素晴らしい演者さんたち。

プログラムは
17時~ 吟遊詩人見習い 村上栄子 with ヒメ巴勢里 「ゴシックハープ弾き語りと詩の朗読」
17時20分~ 雲の劇団雨蛙 「パフォーマンス」
17時50分~ 林黄太 「クラシックギター」
18時10分~ 山崎光瑤 「薩摩琵琶」
18時30分~ 民謡鈴木流 峰晴会 「三味線、尺八と歌」






 

磐田文化振興センター3F第4会議室でいわた表現の会からころのKARAKOROフルーツポンチを観た

カテゴリー │いろいろ見た

11月3日(土)14時~

磐田で14時から朗読と歌をきいた。

終了後、浜松に戻り、
17時から詩や歌や演奏をきくことになる。

考えたことは
演者たちと観客の関係である。

両者の間の幸せな関係があれば
表現は成り立つ。

人生が変わるべきは
演者なのか観客なのか。







 

わざとらしい階段

カテゴリー │ブログで演劇

これは400字詰め原稿用紙24枚の戯曲です。
1枚1分の換算ということなので、
上演するとしたら24分ほどでしょうか。
上演の予定はないので、確かなことはわかりません。

苫米地英雄と珠代の夫婦。
二人の間に子供はまだいない。
新築の家を建てたのだが、
どうも階段がおかしい。
そこで、夫は建設会社の担当者である小石川を呼びつける。
そこで・・・。

わざとらしい階段
      

【登場人物】

苫米地英雄(とまべちひでお)
苫米地珠代(とまべちたまよ)
小石川健夫(こいしかわたけお)
カタル



   新築の家のキッチン。
   昼食が終わったダイニングテーブル。
   夫の英雄が、テーブルの食器を片付けている。
   テーブルの上を台拭きで拭いたりしている。
   食器を持ち、部屋を出て行く。
   妻の珠代が建築会社の小石川と共にやってくる。

珠代 お早かったんですねえ。
小石川 先の用が早く終わりまして、時間をつぶそうとしましたが、苫米地さんチなら、と甘えちゃいました。
珠代 いいんですわよ。これからも空いた時間がありましたら、気軽にお寄りくださいな。
小石川 そうですか。甘えついでに、そうさせてもらおうかな。助かります。
珠代 いえいえ。どういたしまして。

   英雄が、お盆に冷たいお茶を三つ持ってきて、テーブルに置く。

小石川 どうも、ありがとうございます。ご主人。
珠代 温かいお茶の方がよろしかったんじゃ?
小石川 いいです。いいです。お気を使わず。
英雄 早すぎるから。こっちも準備が。
小石川 あ、すみません。出直してきます。
珠代 いいんですわよ。どうぞお座りくださいな。
小石川 失礼します。

   小石川、椅子に座る。
   向かい合わせに英雄と珠代も座る。

小石川 新しいお宅には慣れましたか?
珠代 おかげさまで。大変お世話になりました。
小石川 いえいえ僕なんて。ほとんど高橋がやりましたから。
英雄 (厳しい顔で)今日お呼びしたのは。
小石川 そうですね。失礼しました。
珠代 あなた、いやですわ。そんな厳しいお顔なさって。
小石川 まあ、お茶をどうぞ。
英雄 俺が出したんだ。
珠代 まあ、どうなさったの?お体の具合が悪いんじゃ。
小石川 それはいけません。
英雄 階段のことなんだが。
小石川 はい。今回階段だけは私が担当させていただきました。
珠代 とっても素敵な階段を作ってくださって。
英雄 階段なんか、普通でいいんだ。
珠代 あら。全体的にとても慎ましいお家なんだから、階段くらい。
英雄 慎ましくて悪かったな。高給取りじゃないんでね。
珠代 誰もあなたのお給料のことなんか。
小石川 僕だって、思いますよ。このまま今の会社にいていいんだろうかって。
珠代 あらそんなに厳しいの?
小石川 うちの高橋クラスになれればいいんですけどね。そこまで出世できるかどうか。
珠代 陰ながら応援していますわ。小石川クン。
英雄 (クンと親しげに呼んだのに反応して)階段のことで話があるんだ!
珠代 あら、やだ。かいだんかいだんって、知ってらっしゃるでしょ?わたし、怖い話大嫌いなんだから。
英雄 怖い話じゃないよ。そこの二階に上る我が家の階段のことだ。
珠代 ああ。
英雄 ああ、じゃないよ。単刀直入に言うがね。
小石川 はい。
英雄 どうして、うちの階段は、最初の図面と違うんだ。
小石川 最初って、予算をお聞きして、高橋と一緒に提案させてもらった図面ですよね。
英雄 問題がなかったんで、それでお願いしたよな。
珠代 ずいぶんと慎ましい図面だった。
英雄 仕方ないだろ。贅沢言えばきりがない。君も、これでいいと言ったじゃないか。
珠代 その時はそう思ったわ。あなたもこれ以上の意見は許さんという剣幕だったもの。
英雄 だからといって、相談もなしに階段だけ変えるのはどういうわけだ。
小石川 すみません。私がお話を聞いたばかりに。
珠代 小石川クンはいいのよ。温かいお茶、お飲みになる?(立ち上がる)
英雄 待ちなさい。話を聞きなさい。
珠代 はい。(座る)
英雄 実はなあ、今朝、階段を上ろうとしたんだ。
珠代 あらやだ。私がお隣に回覧板をお届けにあがった時。
英雄 そうだ。君はお隣に行くと、なかなか帰ってこないからな。
珠代 そうよお。今朝も子供さんのお話で盛り上がって。お隣のちいちゃん、来月バレエの発表会ですってね。一緒に観に行かない?
英雄 何で人の子のバレエの発表会を観に行かなければならないんだ。
珠代 あらいいじゃない。かわいいじゃない。かわいくないの?ちいちゃん。
英雄 ちいちゃんの話はいい。階段のことだ。
珠代 あらやだ。怪談?怖い。高校の時、シスターが話す怖い話に耳をふさいでいたの。
小石川 奥さん、カトリック系の高校だったんですか?
珠代 そうよ。毎朝讃美歌を歌ってね。でもシスターが話す怖い話が、なぜかお岩さん。一枚~二枚~って。ドラキュラの話ならまだわかるんだけど。
小石川 ハハハ。そうですね。
英雄 うちの階段の話をしているんだ。
珠代 一段~二段~って。やだわ。お岩さんと混線した。あなたが階段の話なんかするから。
小石川 階段の話はやめましょうか。
英雄 そんなわけにはいかん。あれ?どこまでしゃべったかな。
珠代 あなたが泥棒みたいなことしたところですよ。
英雄 自分の家の階段上ろうとして、何で泥棒なんだ。
珠代 だって二階は私の部屋。それと、もうひとつは将来生まれる私たちの子供の部屋。
英雄 なら、俺も関係あるだろう。
珠代 まだいないじゃないの。
英雄 おまえ。
小石川 そのうちできますよ!苫米地さん!

   英雄は小石川をにらむ。

小石川 あ、すみません。
珠代 その階段がどうしたのよ。上ろうとしたら。
英雄 ああ。確かに君の二階の部屋は、趣味のビーズ細工を集中してやりたいということで、認めた。
珠代 とっても感謝してます。
英雄 将来認められて、少しずつでも販売できるようになればと思ってな。
珠代 そんなことちっとも考えていませんわ。
英雄 いや、きっと売れるよ。それだけの才能はあるよ。
珠代 そんなあてにもならない未来のことなんか。
英雄 君だって、生まれてもいない子供のことなんて。
珠代 私の目標なんです。
英雄 ・・・。
小石川 階段どうですか?よかったでしょう。
英雄 いいも何も。俺に言わずに勝手に変えやがって。
珠代 いいじゃない。階段くらい。私と坊やのところへ向かうひとつの道なのよ。
小石川 やっぱり相談すればよかったですかねえ。
珠代 いいのよ。小石川クンは何にも悪くない。とってもいい階段よ。
小石川 そうですよ。奥さん、こんなに満足されてるんですから。
英雄 おまえが言うな。責任者の高橋さんを呼んでくれないか。
小石川 高橋は大口の仕事がありまして。億単位の。
英雄 うちの仕事じゃ来れないってか。安い仕事でクレームじゃ、たまらんてか。
珠代 あなた、小石川クンはそんなことまで言ってらっしゃらないのに。
英雄 そもそも君が悪いんだ。要望は君が出したんだろ?
小石川 僕も積極的に提案しました。最新の階段はこれですよって。
珠代 あなた、最近の階段ってほんとすごいのよ。びっくりしちゃった。いつもお家の中にばかりいると、浦島太郎だなって。あっというまにお爺さん。
小石川 お婆さんじゃないですか?
珠代 そうね。そんな私を小石川クンは新しい世界に案内してくれた。
小石川 そんな。
珠代 さしずめ私の救世主。イエス様。
小石川 ただの建築会社の営業マンですよ。
英雄 おまえたち、何があったんだ。
珠代 あらやだ、もしかして、あなた妬いてらっしゃるの?
英雄 誤解されてもおかしくないだろう。
珠代 私たちやましいことは何もありませんわ。
小石川 そうですよ。業者と顧客の間柄。僕とご主人の関係と同じですよ。
珠代 (小石川に)ねえ。
小石川 (珠代に)ねえ。
英雄 ちょっと、見つめ合うのはやめなさい。
珠代 それで、階段を上った感想はどうでした?
英雄 上るも何も。
小石川 (期待をこめ)ええ。どうでした?
英雄 上れなかったよ。
珠代 何よ。意気地のない。
英雄 意気地のないって。頑張れば上れるのかあれ?
珠代 そうよ。少し頭を使うかもしれないけど。
英雄 何だよ。俺は頭は悪い方じゃないぞ。
珠代 勉強できるとかできないとかの頭じゃなく。
英雄 生きる知恵みたいなものか?俺にはそういう頭はないと?
珠代 そんなこと言ってないわよ。初めての子供だって、簡単に上れるわ。あっという間にね。
小石川 どこで引っかかったのかなあ。
英雄 何だよ。業者まで思わせぶりに。ちゃんと説明しないか。
小石川 説明と言われましても。チャレンジしてもらうしかありませんので。
英雄 そんなややこしい仕事をしたのか。お宅の会社は。
小石川 それが好評で、選んでいただいてるんですけど。
珠代 あの階段は大ヒットよ。そのうち世界的商品になるわよ。
小石川 だといいですけど。
珠代 SNSでも積極的に宣伝するからね。
小石川 ありがとうございます。当社はお客様のおかげで成り立っております。
英雄 俺は認めんぞ。あんな階段。上れない階段なんて。
珠代 それでどうなのよ。上れないにしても、上ろうとした感想は。
英雄 ひとことで言うならな。
小石川 今後の参考にさせていただきます。
英雄 わざとらしい。
小石川 わざとらしい?
珠代 何ですか?わざとらしいなんて、そんな表現じゃ何も伝わりませんわ。
英雄 伝わらないも何も。あんな階段あり得ない。
小石川 例えばどんなところがですか?
英雄 見た目は普通の階段なんだ。
珠代 ええ。あなたもよくご存じの図面通りの形状。
英雄 それがわざとらしいというんだ。
珠代 どこにわざとらしさがあるかしら。
英雄 いかにも男など知りません、という清楚な形状の女。
珠代 どなたのこと?
英雄 あくまで物の例えだ。
珠代 そうですか。誰かを想定しておっしゃっているのかと思いましたよ。
英雄 それが実はとんでもない食わせ物で、色情魔。男と名がつけば目がない。
珠代 だから、どなたのことです。
英雄 誰でもない。それとも君、思い当たるのか?
珠代 当たりませんよ。私の出会ってきた方々、まじめすぎるくらいで、いい人ばかり。
英雄 その、何でもない階段に近付くと、手招きしやがるんだ。おいでなさいって。
珠代 階段が手招き?
英雄 ほんと、わざとらしい。男をだます罠みたいなもんだ。
珠代 おかしいわ。女の子だったのかしら。
英雄 一段目を上ろうとしたんだ。そしたら、突然小鳥のさえずりが聞こえて、森の木々が現れてくるぞ。単なる家の中の階段なのに。
珠代 サービス精神旺盛ね。あなたには癒しが必要なのよ。
英雄 癒し?そんなものに浸ってる暇はない。仕事のことで頭がいっぱいだ。これから住宅ローンも始まるじゃないか。
珠代 たまには森の中で、ゆったりするべきよ。ひとつ深呼吸するだけで、生まれ変わるわよ。
英雄 そういうわけにはいかない。森に入った途端に、足を取られたんだ。
珠代 森の妖精たちにつかまってしまったのね。
英雄 木の根っこが盛り上がって、行こうとする俺の足を絡めとるんだ。
小石川 それが妖精たちの仕業ですよ。
英雄 やっとの思いで絡んだ根っこを引きちぎって、逃げ戻ってきた。一階へ。
珠代 あら、それで指に傷があるのね。
英雄 ああ。指だけじゃない。全身傷だらけだ。
珠代 すぐ手当てしないと。それともお医者様行く?
英雄 落ち度もないのに階段での事故で医者行くのか?業者の責任じゃないのか?
小石川 安心してください。保険が出ますから。
英雄 保険に入ってるのか?
珠代 ええ。階段保険。とってもいい保険なのよ。
英雄 初めて聞いたな。階段保険なんて。
小石川 気を付けてください。階段では、何が起きるかわかりませんよ。
英雄 ほんの短い間だ。たかがしれてる。踏み外さないとか、滑らないとか、落ちないとか。気を付ければすむことだ。
珠代 少しご機嫌斜めなのかしら。
英雄 君はさっきから誰の話をしてるんだ。
珠代 誰って、階段のことよ。
小石川 ところで、名前は決まりましたか?
英雄 名前?
小石川 つけるの楽しみにされていたじゃないですか。
珠代 主人にはまだ、話してないんですのよ。
小石川 そうですか。それは失礼しました。いいじゃないですか。発表してくださいよ。
英雄 階段に名前があるのか?
珠代 あなたもご存じの名前よ。
英雄 何だよ。俺の死んだ親父の名前でもつけたか?
珠代 いやですわ。そんなはず。大事なお父様のお名前。彦三郎だなんて。
英雄 俺が知ってる名前?
珠代 よく話してたじゃない。言うと、あなたはいつもそんな話止めろって。
英雄 カタルか?
小石川 へえ。カタル君ですか?語る、だなんて、人間っぽい。
英雄 男の子が出来たら、カタルと名付けるって言ってたよな。
珠代 いいじゃない。子供が出来たら考えれば。それに生まれるのは、男の子とは限らないでしょ。
英雄 あんなに男の子を欲しがってたのに。
珠代 女の子だって子供よ。
英雄 あんなに大事にしていた名前を、階段につけるなんて。
珠代 だって。
英雄 俺には一言もなしに。
珠代 カタルの話をすると、あなたいつも怒り出すから。
英雄 子供の話を聞きたくなかったんだ。
珠代 あなた・・・。
英雄 家を建てても、二階の部屋は子供部屋にしようって。生まれてもいないのに。
珠代 ごめんなさい。あなたの気持ちも考えずに。
英雄 俺は、子供のために君と結婚したんじゃない。ただただ、君と一緒になりたかったんだ。
珠代 ごめんなさい。私も同じよ。
英雄 珠代。
小石川 では、私、そろそろ失礼して。
珠代 あら、カタルに会ってらっしゃいよ。
英雄 そうだ。カタルに会って行けよ。
珠代 あなたにも会わせなきゃならないわ。
英雄 会うも何も階段だろ?その階段がカタルって名前なんだろ?階段に名前があってもいいじゃないか。さっきは幻覚症状があったようだ。さあ行くぞ。
珠代 幻覚じゃありません。カタルちゃん、いらっしゃい。
英雄 何だよ。階段がやってくるのか?
珠代 あなた、片足を一歩上げてくださいな。
英雄 一歩?
珠代 そう。まるで階段を一段上るかのように。
英雄 こうか?

   英雄は右足を階段を上るかのように、上げる。

英雄 何だよ。これは。まったくわざとらしい。右足の下に階段があるようじゃないか。
珠代 あるんですよ。強く踏んでくださいな。
英雄 こうか?お?しっかりと段を踏んだ感触があるじゃないか。まったくもってわざとらしい。
珠代 わざとらしくはありませんよ。本当の階段なんですよ。
小石川 うん。とっても上出来だ。これなら世界的に売れる。
珠代 さあ。反対の足も同じように上げてください。それを交互に小気味よく繰り返すんです。
英雄 何だよ。君は俺をバカにしてるのか?そんなの階段を上る基礎中の基礎じゃないか。
珠代 何事も基礎が難しいのよ。先ずは、やってみなさいよ。
英雄 ほれ。(上ろうとするが)あれ?(上ろうとするが)あれ?上れない。
珠代 そらみなさい。
英雄 これ、階段じゃないだろ?
珠代 だって私は毎日上ったり下りたりしているのよ。それはご存知でしょ?
英雄 ああ。上から大きな笑い声が聞こえてくるからな?そんな面白いテレビやってるのか。
珠代 たまたま昨日の旅行バラエティーでしょ?つんつくったら、最高面白い。キャハハ。
小石川 僕も観ました。アハハ。
珠代 キャハハ。
小石川 アハハ。
英雄 お、できた。
珠代 言う通りにやればできるでしょ?できないだなんて、なんてわざとらしい。
英雄 ところで、これ、何なんだ。階段か?
小石川 れっきとした階段です。ただし、最先端のAIを搭載している。
英雄 AI?人工知能か?
小石川 そうです。自ら、何をすべきか考え、学び、成長する。
珠代 まるで、子供だわ。カタル。
英雄 だって階段だろ?
小石川 階段の領域を広げる超階段といってもいいかもしれません。僕には階段たちの声が聞こえるんです。人に上ったり下ったりされるだけでいいのか。犬や猫にさえ。明けても暮れても踏みにじられるばかり。
英雄 だってそれ、階段の役割じゃないの。
小石川 その考えが古臭いんですよ。
英雄 古臭くて悪かったな。階段にAIなんて必要ない。すぐに取り外してくれ。そして、ごく普通の階段に作り直してくれ。
小石川 といわれましても、もったいないですよ。結構な金額かかっていますから。
英雄 いくらなんだ。最新の人工知能ってのが。
珠代 ま、いいじゃない。お金は私の方からお支払いすることになっているから。
英雄 何?俺にだまってそんな契約をしたのか?
珠代 いい契約条件があったのよ。
小石川 当社自慢の階段ローンです。
珠代 内緒にしていたのだけれど、新しく仕事始めますのよ。
英雄 何だ?ビーズ細工か?
珠代 ビーズ細工では稼げません。パートに出るのよ。朝、昼、晩と。
英雄 そんなに稼がなきゃ返せんのか。その階段ローン。
小石川 落ちたら真っ逆さまで。アハハ。
珠代 階段のため、働くことができるのなら幸せなことよ。
英雄 何が幸せか。
珠代 あなた、御託を並べないで、一度カタルときちんと向き合ってくださいな。
英雄 何だよ。向き合うって。たかが階段だろ?
カタル はじめまして。
英雄 おい。誰か小さなお子さんのお客さんだよ。
珠代 ちがいますよ。よく聞いてくださいな。
カタル はじめまして。
英雄 外からじゃないのか。
珠代 怖いわ。それこそ空耳よ。
カタル おとうさん。
英雄 え?
カタル おかあさん。
珠代 は~い。お母さんよ。
英雄 カタル?
カタル うん。僕、カタル。おとうさん?
英雄 そうだよ。カタル。かわいらしい男の子だ。おとうさんだよ。苫米地家にようこそ。
珠代 よかったねえ。おとうさんに受け入れてもらって。
英雄 さあ、行こうか。
珠代 え。
英雄 二階へ。一緒に。
珠代 はい。
英雄 ねえ。カタル、連れてってよ。
カタル OK。パパ。ママ。
英雄 パパ、ママだって。
小石川 (小声で)わざとらしい。じゃ、僕、失礼します。



終わり



 

あそviva!劇場で劇団MUSES「MADOI」を観た

カテゴリー │演劇

10月28日(日)17時~

JR東静岡駅付近にある、静岡芸術劇場から
JR静岡駅付近にある、あそviva!劇場へ移動する。

あそviva!劇場は初めて伺ったが、
2週間ほど前に行ったやどりぎ座と同じ
人宿町にあり、とても近い場所にあった。

キャパシティが30名ほどということだ。
HPを見ると2015年6月創業。
バーも併設しているそうだ。
主宰のあまるさんは大道芸人。
明日11月1日から大道芸ワールドカップが始まるが、
SPACといい、知らず知らず、影響が出ているのだ。

劇団MUSESは主宰者である近江木の実さんが浜松市在住だが、
多くの劇団員は静岡市中心に住まわれているように思われる。
今までは、その距離を埋めながら上演していたが、
今回は近江さんは脚本のみ担当し、
静岡メンバーたちで演出を含め、芝居つくりを行った。

僕は、それがとても功を奏したように思えた。
執筆者は書くことに集中し、
芝居の稽古も距離を気にすることなく、
じっくりできたのではないだろうか。

タイトルは、MADOI。
円居(まどい)とは、
①まるく居並ぶこと。車座になること。
②親しい人たちが集まり、語り合ったりして
楽しい時間を過ごすこと。団欒。
とある。
アルファベットにしたところは
「惑い」とも掛け合わせられているかもしれない。

とあるシェアハウス内の
共有区間を舞台とする。
3か月前から募集され、
4名の入居枠があり、
残り1枠が空いている。
そこに2人の人物が現れ、
残る空き枠をめぐって騒動が巻き起こる。

シェアハウスという不安定さが内在する
どこか現代的な場所の設定がよかった。
入居者には入居の事情があり、
訪れる人にも訪れる事情がある。
そして、シェアハウスの管理者にも事情がある。
事情同士がぶつかりあって、
ドラマが生まれる。

それらを誘導する小道具や劇中歌われる歌もはまっていた。
小道具は、壁に掛けられた鉛筆画。
歌はドボルザークの交響曲第9番「新世界より」の中の旋律から
生み出された「家路」と呼ばれる歌。
日本では小学校の帰りに流れる曲。
「とお~き~、や~まに~、ひ~はお~ちて~」。

道具立てがうまくいくと
俳優たちも安心して演技ができるので
観客たちも無事終幕にたどり着ける。
入居者の一人の趣味であるマラソン
(ハーフマラソンどまりということだが)
に倣い、全員が疾走する場面では、
タイトルの“まどい”が妙に納得した。

それぞれが仕事や家庭を持ちながら、
時間を合わせて稽古を積む地域劇団。
そのように時間をやりくりして、
一つの場所に集まって芝居を作り上げるのは
ある意味“まどい”だ。
もちろん楽しいだけではなく、
厳しさもあると反論されるであろうが。

「ハロウィンにのっとって、プレゼントを」と、
帰りに観客たちにお菓子が入った小袋が渡された。
そうだった。
街中ではハロウィンで仮想する人たちであふれていたのであろうか。
メイン通りを通ることはなかったので、
この週末、ハロウィンらしさはテレビの画面でしか見なかった。
他人の軽トラ横倒しにしちゃいかんよな。

チラシも話の内容をとらえていて、とってもはまっている。