鬼と私の居ぬ間に その3

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   走ってきた桃子と肩と肩がかすかに当たる。

百合「イタ」

   百合、大げさな感じでよろける。

桃子「す、すみません。お怪我は?」
百合「ちょっとぶつかっただけだから、アタッ、あなた見かけによらず」
桃子「急いでいたので。もし何かありましたらここへ」

   桃子、名刺を1枚出し、百合に渡す。

鬼と私の居ぬ間に その3

桃子「肩が砕けたとか外れたとか」
百合「(読んで)国家戦略室別室 1課 吉備野(きびの)桃子」
桃子「ところでこのあたりで何か変わったことはありませんでしたか?」
百合「変わったこと?私、今日、久しぶりに来たので」
桃子「わかりにくかったですね。言いなおします。このあたりで想像しがたい出来事があったり、もしくは、想像しがたい生き物に遭遇しませんでしたか?」
百合「は?もっとわからないんですけど」
桃子「遭遇してないようですね」

   桃子、携帯取りだす。ぬいぐるみなどストラップがぐちゃぐちゃついている。

桃子「こちらピーチ。X地点に到着しました。今のところ異常ありません。ドーゾ。・・・了解しました。調査続けます」
百合「何の調査?」
桃子「一般市民には内密なもので。もしも知られるとパニックが」

   桃子、わざとらしく口をつぐむ。

百合「パニック~。面白そう。教えてよ」

   百合、桃子を背中から抱えこむ。

桃子「ム、ムリです。一般市民を巻き込むわけにはいかないんです」
百合「殺人犯が人質とってたてこもったとか。私、体力には自信あるの」

   百合、空手のフリ。

桃子「そんな問題じゃない。例えば・・・」
百合「何思いだそうとしてるの?」
桃子「地球上の強い人」
百合「え~と。ヒョードル。エメリヤーエンコ・ヒョードル。人類最強と言われている」
桃子「誰ですか?それでいい。そのひょーどるが来ようが、かなわない相手なんです」
百合「ますます興味わいちゃう。わからずやのばあさんのことはいい。そのヒョードルでもかなわない生き物をつかまえるのに私を1枚かませてよ」
桃子「遊びじゃないんです。あなたの命の保証ありませんよ」
百合「日本にいたころ好きだったんだ。家政婦さんや町内会長やフリーのルポライターが活躍するテレビドラマ」

鬼と私の居ぬ間に その3

桃子「失礼します」

   桃子、百合に敬礼をして、速足で歩きだす。

百合「待ってよ」
雪の声「待て~」

   雪のすさまじい声が聞こえる。
   桃子、びくっと止まり、ふりかえる。
   夕子が恐怖の顔で逃げてくる。

夕子「助けて~」
桃子「ん?」

   桃子、夕子の身を確保し、身構える。

桃子「(百合に)あなたも下がって!」

   雪が走ってくる。

桃子「え?」
雪「(雪国を歌い)追いかけて~、追いかけて~」

   雪、百合を見つける。

雪「百合じゃない。ひさしぶり~」
百合「雪」
夕子「百合?ひさしぶりで顔忘れちゃったよ」
百合「夕子ったら」
雪「どうしたの?コペンハーゲンから引き揚げてきたの?」
百合「ちがうよ。お母さんに会いに来たのよ」
夕子「私たちにじゃなく?」
雪「短い付き合いだったじゃない」
百合「付き合いは長さじゃないよ。そ、そうだ。雪と夕子にも会いに来たのよ。びっくりさせようと思って」

   たぶんそれはウソ。

鬼と私の居ぬ間に その3

夕子「百合、鬼ごっこやらない。雪とふたりでやってたのよ」
百合「鬼ごっこ?」
雪「ばかばかしいと思ったけど、やり始めるとはまるのよ」
夕子「(桃子に)あなたもやろう。2人より3人。3人より4人の方が面白い」
桃子「私?私は無理です。大事な任務中なんです。ごっこというよりホントの鬼・・・」
百合「やろう!鬼ごっこ!つかまえるぞ。にっくき鬼め」
雪「鬼が捕まえるんだけど」
夕子「丸くなって」

   夕子、みんなを丸くならせる。

夕子「じゃんけん」
桃子「え?」
夕子「ぽん」

   夕子、雪、百合はパー。
   桃子ひとりグー。

鬼と私の居ぬ間に その3

百合「さすが私たち気が合う」

   百合、夕子と雪の顔を見てうれしそう。

百合、夕子、雪「逃げろ」

   3人、それぞれ逃げていく。

桃子「遊んでる場合じゃない。大変なことが起きているのよ」

桃子、携帯を取り出し、画面を見る。

桃子「間違いない。確かにこの場所だ」

   桃子、走り去る。


その4に続く。


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