浜松市勤労会館Uホールで、はままつ演劇フェスティバル2023「高校演劇選抜公演」を観た

カテゴリー │演劇

1月13日(土)と14日(日)の2日間に渡り、
『静岡県西部高等学校演劇協議会 高校演劇選抜公演』が行われた。
はままつ演劇フェスティバル2023の一環である。

運営に携わっている静岡県西部演劇連絡会のメンバーが、
各日上演終了後、『座談会』と言う名の質疑応答の会を設ける。

前年までは舞台の上から、客席の高校生たちに向け、講師と言う立場で、
講評を行うという方法が取られていた。

今回、あらたに、同じ目線に立ち、互いの顔が見える関係で対話をしようということになった。

高校の演劇部には秋の大会があり、それに向けて作品を作る。
それが終わった後、こちらの「高校演劇選抜公演」のため、準備を進めることになる。

秋の大会で、上級生が引退する、
日があまりない、
授業はもちろん、学校のテストもある、
風邪にかかる人もいる‥‥‥。

そんな中で、今回の公演のための作品を作り上げる。
高校に入ってから演劇を始めた一年生は、
演劇経験が一年未満だ。

13日は上演後、ホールでは翌日のリハーサル中のため、
ロビーで2校との「座談会」を行った。
14日は4校のため、客席で、2校ずつに分かれ、
西部演劇連絡会のメンバーも二手にわかれ、担当した。


13日(土) 
◎浜松西高校「Mr. My Friend No.9」 

世界にアンドロイド2人きりという鮮烈なラストが印象的な作品。
近未来ではあるが、とても現代的でもある。
「外に出た今」と「内に居た過去」を音楽と照明で分け、
伝えるべきメッセージが浮かび上がって来る。
つなぐのは先生と僕の同じ誕生日。
AI 時代はプロ棋士がAIに将棋で負けるが、
ここではアンドロイドは作った先生にチェスでは勝つことができないまま、
永遠の別れとなる。
人の心が宿るアンドロイドも人間が作った生産物なのだ。
座談会の中で、オリジナル作品を用意していたが、
コロナの中、上演できなかったと語っていた。
その時々で部員の事情もあり、時期が変われば上演が難しいこともあるだろう。
でも、書かれた脚本は上演されて初めて役割を終えるので、
こだわりがあるのならぜひ何らかの形にしてほしいと思う。

追記
座談会後「今までで一番影響を受けた作品は?」と問われ、明確な答えが出来なかった。
演劇をやっている影響は作品だけでなく、いろいろな要素があるので、頭が一瞬パニクる。
小学校の林間学校のクラス発表で台本を書いたこと。
大学時代演劇を始めようと思ったけどうまく始められなかったこと。
社会人になり黒テントを招聘するアマチュア劇団に入ったこと。
共同創作をする作り方に共感していた劇団青い鳥の芹川藍さんが講師の磐田の講座に参加したこと。
はじめて歌舞伎座で歌舞伎を観て「これ「演劇じゃん」と思ったこと。
劇団四季の「ライオンキング」のオープニングに「高度な仮装大賞だ」といたく感動したこと。
今も観たり書いたり戯曲も読んだりしていること。
「一番影響を受けた作品」を探し中とも言える。
これは本音である。


◎浜松湖東高校「Araneae-アラーネア-」

アラーネアとは蜘蛛の糸の意味。
同級生が4人という過疎地域の高校生。
ひとりは村長の娘で、近所は年寄りばかり、最寄りのコンビニも遠く、バスも1日数本。
あさひ、いろは、しょうた、ひまりはそれぞれ特徴があり、そして夢があり、
小さなコミュニティーの中でもいろいろな葛藤がある。
リズムを生み出しているのは、思いついたことをすぐ行動に起こすあさひ。
そこから、クモの糸のようにそれぞれの関係に複雑に派生する。
友だちみたいな先生、たけねえと共に過ごすあたりまえの高校生活はどこか甘酸っぱい。
誰にでも思い当たる青春時代のひとつのわだかまりが解決した後は、
良い曲が流れる中、卒業までの日々がセリフなしの早回しで演じられる。
それが自然で、リアリティがあった。
演出者によると、秋の大会が生徒オリジナルのテーマが重めの脚本で、
今回は明るい自然体で出来る脚本を選んだということだった。
通常1時間の高校演劇の中で、今回はおよそ35分の上演時間。
これからの可能性については、楽しみしかない。


14日(日)
◎磐田西高校「弁護代理人」

幕開け、肝試しに校内の警備室に忍び込んだ生徒のひとりが幽霊の登場をきっかけに起こる死亡事故。
そして、暗転後、この学校では最高裁判官であるオダマキという生徒がいて、悪をさばいているという説明がされる驚きの展開。
完全な正義とも言えず、きらいな食べ物は他の人に押し付けるというかわいい横暴ぶり。
その支配に対抗し、弁護代理人部というクラブがあり、裁判の被疑者になろうとする生徒を守っている。
そこに、冒頭の生徒が何人も消えているという「神隠し事件」の話が入り、その解決が主題となっていく。
証言人として先生たちが呼ばれ、これが生徒に従う先生と言う矛盾の構造というのは面白い。
仕掛けられたオチはまさに戦慄の事実で、それはひとつのミステリー。
1時間の上演時間に詰め込むには情報が溢れすぎていて、後は入念なブラッシュアップ。
サイコパスの殺人鬼と弁護代理人部の世界が2つの題材が同居しているようで衝突してはいないか?
考えられたキャラクター造形は俳優にとりやりがいがあるが、脚本が整理されればされるほど、
練習でも丁寧に時間を費やすことが出来る。
そのあたりも考慮すると演劇全体の完成度がグンと高まる。
観客は命の軽さに慟哭し、同時に命の重さを知る。
タイトルは「弁護代理人部」が良いと思う。


◎磐田東高校「制服の落下点」

脚本を良く読み込まれていて、それぞれの人物造形が的確に思えた。
それは自然に聞こえ見える、セリフ、動作に反映する。
俳優自身が自ら考え、話し合いながら演技プランを立てているように見えた。
もちろんそれを全体で支える演出がある。
陸上部のジャージの子は舞台に入退場する時の走り方が、舞台効果の為に意図的で美しい。
同年代の高校生を演じるというやりやすさはあっても違う人格の役を、
今生きている自分が持っているものを活かしながら演じているように思えた。
それは他者との関係性にも現れる。
登場人物との濃厚なコミュニケーションが、
キーとなる舞台に現れない2人の人物の存在を浮き立たせ、それが客席を切なくさせる。
脚本の問題だが、2人目の人物は違う結末であった方が良かったかもとも思う。
そうすれば、舞台に登場する人物同志で終わる結論が、もっと外に向かったかもしれない。
ただ、じゅうぶん脚本が持つメッセージは伝わって来た。
「制服の落下点」は青春の1ページと言うには、あまりにも哀しい場所である。


◎浜北西高校「天魔のヒト仕事」

悪魔のような天使「天魔」が天からの指令を受け、
テストの点はいいが、友だちも仲の良い異性もいない、孤独と思い込んでいる男子学生アキラの元に訪れる。
話しの設定はある種物語の王道。
すぐ思いつく代表的作品は「ドラえもん」(未来から冴えない先祖のび太くんのため、ドラえもんが送り込まれる)。
助ける側と助けられる側と言う構造だが、
特徴は世話を焼く側も焼かれる側も同様にコンプレックスがあることにある。
一見一方的な立場関係だが、お互いに足りないところがあり、
それが同じ目的に立ち向かう時は、共闘する同志となるのだ。
そこに大きなテーマ、「友情」が生まれる。
前に立ちはだかる壁が高ければ高いほど、生み出す友情は熱く、心に残るものになる。
アキラが友だちに声をかける時、気になる子に告白する時、天魔が絡むと、
もっと物語が展開すると思ったが、この話はアキラが家で天魔とのやりとりがすべて。
アキラの外での行動が生み出され、結果成長と言う目的を遂げる。

追記 僕がMCとして担当したため知ったのだが、
本当は演劇部の生徒達でオリジナルの脚本を書きたかったが、完成せず、
今回は部室にあった戯曲から選んだそうだ。
ぜひ次回公演はオリジナル作品を、というより、先ずは1本書き上げて欲しい。
なにせ、戯曲の描き方の第一歩は「最後まで書く」ことなのだ。
タイトル、何を書くか、いつ(時)、どこ(場所)、誰(登場人物)をひとつひとつ決めて行く。
僕が今まで教わった事でもあるが、どこか自ずと実践していることでもある。


◎磐田南高校「Excellent!!ケミストリー」

僕が担当した高校ではなかったので、帰り際出入口で、
「80年代のロック好き?」とオリジナル作品の作者に話しかけたら、
「はい!」と答え、その後、最初の曲デヴィッド・ボウイ?と観劇時の印象で聞いたらポカンとされ、
他の生徒が「ビリー・アイドル」と一言。
知ったかぶりしたみたいで、見事に恥をかいたが、そんな今生きている自分が「好きなもの」がストレートに現れた演劇だった。
ビリー・アイドルの曲に乗り、車のハンドルと工具を手に、踊りながら現れるチアキ先生。
そこで行われる作業はエドのダイヤル式電話につながり、それは過去である80年代。
2023年の高校に1980年代のチアキ先生の大学時代から同級生であるエドを呼び寄せる。
つまりタイムトラベル。まさに「バックトゥザフューチャー」の逆バージョン。
SF好きで今に不満を持っている現代の女子高生リンが、
予感のように80年代の若者エドに恋をして呼び寄せたようにも見えたが、
チアキ先生とリンの行動はつながっていたのだろうか?(見逃したかも)
作者は、80年代の若者エドを「男でアメリカ人(アメリカ×日本のハーフ)で男」で生きやすかった時代と表現している。
また、学生の頃のチアキとの会話で「集会行って来た」と、
学生運動の時代(盛んだったのはもう一世代前だが)のような会話がなされる。
80年代のロックからパンク、ニューウェーブと分化していく音楽論、ミュージシャンやバンド名、
「エイリアン」「ターミネーター」「バックトゥザフューチャー」「フェリスはある朝突然に」等の映画が会話に織り込まれる。
スマホに情報が集約していく現代への疑問が語られる。
あふれ出る多方向への思いが抑えきれないように。
リンが本音を語るかのように言う。
「今の私には何もない。この世界はつまんない。孤独になりたくない。未来は変えられる」


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