万年橋パークビル8Fで絡繰機械’S「調合奇妙(チョ~!ゴ~!キミョ~!)」を観た

カテゴリー │演劇

6月17日(日)14時~

鳩に育てられた羊飼いの女とはいったい何だろうか。
それって、女?鳩じゃん。
オオカミに育てられたオオカミ少女じゃあるまいし。

元科学者の老人がえさを蒔いている鳩に恋をするって何だろうか。
それって鳩?じいさんボケてんじゃん。

そんな当たり前な疑問を当たり前と思わせないのが、
“調合奇妙”。

変な調味料を作るように。
妖しいカクテルを作るように。
魔女が大甕の中で棒でかき混ぜて毒薬を調合するように。
科学の培養には気の遠くなる調合が組み合わされる。
そして世紀の大発見がなされたりする。

考えれば
会話も調合である。
話の組み立ても調合である。
調合の果て、何か新しきものに変わる。

話題は突然変わるが、
サッカーのワールドカップの最中である。
強いチームは
統制と自由が両立している。

オートマティックであるが
いざというときに力を発するのは
個々の創造力を生かしたプレー。

どちらも両立しないと勝ち抜くことはできない。
メッシがバルセロナでは輝けるが
アルゼンチン代表ではなかなか輝けないように。

絡繰機械’Sが見通しているものと
どこか一致する。
オートマティックな部分は
より洗練されているように思えた。

場所を使い慣れてきたのも要因だろう。
今回が初舞台という俳優たちも、
なじんでいるように見えた。
経験のある俳優がそれぞれの地点で
リーダーシップを発揮しているように見えた。

ああ、ますますサッカー論に入っていく。
今回の日本代表は経験者たちが
あるときは自分を殺してまで
チーム(つまり演劇作品)プレーに徹することができるか。
それは結果自分を殺すことにはならない。
いかんなく創造性を発揮する環境を整えることにもなるのだ。

トマス・エジソンをもオリジナリティに欠ける商売人であると断じる
落ちぶれた科学者が、鳩にえさをやっている。
科学者に憧れる少年により、
科学者の過去は紐解かれる。

一方、鳩に育てられたという羊飼いの女の生涯
が描かれる。
こちらは王制を敷く架空の国の権力争いが話の根幹となる。
これは、根源に立ち返り、成り立ちを神話的に描く絡繰機械’Sの
代名詞ともいえる文脈である。

争いの果て、
空中庭園の創造に行きつき、
鳥類たちの楽園のごとく
広大な夢の実現を得る。
そこでは巣作りがなされ、
鳥たちはさえずる。

それは報われぬ創造の畑を耕し続けた
科学者の夢と"奇妙な調合"を施され、
鮮明に浮かび上がる。

世に見える風景は、
くたびれた老人が
道端で鳩に餌をやっている
ありふれた風景なのだろうが。






 

砂山銀座サザンクロス商店街で2018年度6月度公開例会「まちづくり事業」へ行った

カテゴリー │いろいろ見た

6月16日(土)9時~

第1部が久保ひとみさんのトークショー
第2部がパネルディスカッションで浜松のまちづくりを語る。



司会は久保ひとみさん。
パネリストは以下の4名。
鈴木勝彦さん(砂山銀座サザンクロス商店会会長)
松山拓也さん(浜松がんこ祭り実行委員会共同代表)
石岡靖雅さん(浜松まちなかマネジメント事務局長)
渥美洋平さん(浜松青年会議所第68期理事長)

浜松人は
おせっかい
新しいものが好き
人なつっこい
というような話が出ていた。

がんこ祭りは、よさこい祭りの系統であるが、
よさこいが鳴子を使用するのが必須に対し、
がんこ祭りは楽器ならば何でもいいという規則だそうだ。

よさこいの人たちには異議もあるようだが、
空襲により焼き尽くされた町を
復興させたのが、モータリゼーションや楽器などの産業で、
楽器は浜松を象徴するもの、
という説明には納得がいった。

アーケードの天井には
たくさんの傘が浮かんでいた。
梅雨の最中の曇り空に
アーケードの高い天井に浮かぶパステル色の傘。



朝市も開かれ、にぎわっていた。



 

TOHOシネマズ浜松で「万引き家族」を観た

カテゴリー │映画

6月11日(月)20時55分~
レイトショーへ行った。
TOHOシネマズに行くのはひさしぶりかも。
驚いたことにチケット販売所は無人化されていた。
いつの話だ!と突っ込みが来るのかもしれない。

とはいえ、事前に座席を取得する方式はやはり慣れない。
座る場所くらい、
館内に入った時の感覚で選ばせてほしい。
前で観るのか
後ろで観るのか
他のお客さんの配置を見て、
席を確保するのだ。
まあ、もっと行けば慣れることではあるだろう。

マンションの外でじっとしていた
傷だらけの少女を
まるで父と息子のように見える
万引きで一稼ぎしてきたふたりが家に連れてくるところから
話は始まる。

同じ屋根の下に住む人たちは
一見家族のように見える。
祖母であり父であり母であり
姉であり兄である。
そこにまるで妹であるかのように
少女は加わる。

まるで家族のように描かれているが、
ひとりひとりが抱える矛盾の理由は
簡単には明かさない。
家族のように見える人たちの日常を
丹念に描いていく。

そこに映画の時間の多くを費やすが、
それは単にエピソードをつづっているのではない。
ひとりひとりが抱える矛盾を
ひとつひとつ種明かししていく。

この種明かしは
探偵映画のように決して鮮やかではない。
犯人探しが目的ではないし、
わかりやすくエンターテイメントの手法をとっているのでもない。

もともとテレビ等のドキュメント番組を作る会社にいた
是枝監督の特徴なのか、
まるで本当にあったことであるかのように観客に見えるように
カットを選択していく。

すこしずつ解かれていく
種明かしは明るい方向には向かわない。
家族のように見える人たちが
本当の家族ではないのに
一つの屋根の下で住まざるをえなくなった理由
が明かされていく。

ただし、登場人物たちは
みな明るく生き生きとしているように見える。
その生き方は道徳的でもないし、
正しくもないし、
あこがれるものでもない。

倫理観からすると
正しいことをし続ける人は、
ほぼ登場しない。

唯一正しいことをする登場人物は
柄本明さんが演じる駄菓子屋の親父ぐらいだろう。
駄菓子屋の親父が発した一言がきっかけとなり、
物語は終結に向かう。

それぞれが抱えた矛盾が
明らかになるスピードが速まるが
それは喜びではない。
喜びではないが、
不思議とさわやかだ。

そんな中、塀の中で流した安藤サクラさんの涙は
カンヌ映画祭の審査員長の絶賛を浴びたという。
それは、
抱えた矛盾が簡単には解決できないことを象徴する涙だったと思う。
そして、それさえもさわやかで爽快である。

決して、
万引きでつながっている疑似家族を肯定しているわけではない。
かといって、このような状況を生み出す社会に異議を唱えたいのでもない。

ただ、このような人たちがいるかもしれないということを
フィクションとして提示している。
僕もこのような人たちがいるのかもしれないと
心のどこかにとどめる。







 

砂山劇場を少しだけふりかえる

カテゴリー │路上演劇祭

路上演劇祭Japan in 浜松2017-2018の2018年版が行われて1週間経つ。
僕が関わった「砂山劇場」は2年越しの取り組みだった。

2017年は、
砂山銀座サザンクロス商店街の人たちやここで活動する人たちに話をお聞きし、
それを元に紙芝居にした。






そして、かつて海であったこの地、「砂山」という地名から
「棒倒しをするために大きな砂山を作り、砂山を崩す」ごく短い芝居を作った。
(写真:SUAC写真サークルTAP!)



2018年は、メンバーとも話し合いながら、
昨秋、募集チラシを作成して取り組みを進めた。



街歩きから始まり、
戯曲作り
芝居作り
という工程を踏んだ。



予定通り進んだかと問われると、
予測がつかないことを想定しての取り組みが
特徴ではあるので、
当初考えた通りとは言える。


(写真:浜松写真連絡協議会)

6月3日路上演劇祭当日、夕方のNHKのニュースで
路上演劇祭の中のひとつの取り組みとして紹介された。

また、読売新聞の記事で「砂山劇場2018」として記述があった。



こういうものは終わりがないものだが、
とりあえずは、終わった。






 

砂山銀座サザンクロス商店街で砂山劇場2018「サザンクロスで待ち合わせ」を上演した

カテゴリー │ブログで演劇

6月3日(日)砂山銀座サザンクロス商店街で行われた
路上演劇祭Japan in 浜松2017-2018で、
砂山劇場2018として、
「サザンクロスで待ち合わせ」という作品を上演。

砂山町の街歩きから始まり、
徐々にメンバーを集め、
戯曲を作成し、
この日12時25分~上演に至る。
以下、戯曲に当日の写真を組み合わせてご紹介。
撮影は、浜松写真連絡協議会の大石一彦さんと加藤寛治さん。
テーマはラブコメ。
「タッチ」のテーマソングがぴったり。


サザンクロスで待ち合わせ

作・演出:砂山劇場2018


   車掌がやってくる。
   笛を鳴らす。

車掌 サザンクロス~、サザンクロス~。



   砂山楽団が ひもで電車ごっこをしながらやってくる。
   線路の位置にひもを置く。
   駅の位置に新幹線を置く。
   友子が向こう側からやってくる。
   スマホを打ち込む。



   楽団員が友子のスマホの文字を読む。
  
友子 駅ついた。

   楽団員が幸夫のスマホの文字を読む。



幸夫 どっち?
友子 どっちって?
幸夫 北口か南口。

   友子、北か南かきょろきょろ。

友子 方向音痴だし。
幸夫 何ある?
友子 いえやす。あたまにうなぎ。みどり。木で出来てる。
幸夫 出世大名家康君。
友子 何それ?いえやす?くん?
幸夫 なんでもいい。そこ北口。南口へ。
友子 なんで南なの?
幸夫 浅倉南とか。南ちゃん。
友子 誰?
幸夫 タッチ。

   楽団員がアニメ「タッチ」の曲を歌う。



友子 昭和・・・(てんてんてん)
幸夫 とにかく南へ。
友子 OK。

   友子はひもをまたぐ。
   
友子 南口ついた。どこ?
幸夫 サザンクロス。
友子 かっこいい。
幸夫 そうかな。
友子 今サザンクロス?
幸夫 いや。おじいちゃんと散歩中。
友子 散歩?
幸夫 まあいいじゃないか。
友子 いいけど。
幸夫 もう少し時間かかりそう。
友子 どれくらい。
幸夫 わからないけどもう少し。
友子 わかったら連絡して。
幸夫 了解。

   友子はスマホをしまい、南へ向かい歩き出す。
   歩いた先にテープがひかれ、道ができる。
   友子は去っていく。
   楽団員から、ミリヤとまりやが北口に立つ。
   楽譜を手に語りだす。

ミリヤ あつくないですか。
まりや わたしのせいじゃないんですけど、きょう特別あついかも。一枚多かったかも。一枚脱ぎたいかも。
ミリヤ 高くないですか。
まりや 高いかも。
ミリヤ 新幹線からは見えなかった。

   二人は上を見上げている。



ミリヤ ここでやるんですよね。吹奏楽の大会。
まりや ホールはもっと下ですね。
ミリヤ もっと下?
まりや もっと下。
ミリヤ もっと下?
まりや もっと下。
ミリヤ もっと下?
まりや もっと下。
ミリヤ もっと下?
まりや そこ。
ミリヤ 地下ですけど。
まりや ホールあるのそこですけど。
ミリヤ そうなんだ。
まりや 明日そこで演奏するんですよ。
ミリヤ わたし、どこでやっても一緒だから。
まりや ・・・あれ、何に見えます?

   ミリヤ、考えている。

まりや (出そうもないので)ハーモニカ。

   楽団が、アクトタワーがあるあたりに縦向きにハーモニカを置く。

ミリヤ もっと大きいの考えてた。ピサの斜塔とか、イースター島のモアイ像とか。キリンとか。チューバの大石とか。身長二メートルの。
まりや 大石・・・。音楽の街らしいです。
ミリヤ そうか。だから今から行くの楽器博物館なんだ。遅いなあ。友子。
まりや わたしたちが早く着きすぎたんですよ。
ミリヤ ハーモニカねえ。ジャックと豆の木の巨人が吹くのかなあ。横からかぶりついて。むしゃむしゃと。
まりや 想像するとずいぶん怖い。横からかぶりついてむしゃむしゃと。チューバの大石。身長二メートルの。
ミリヤ 何て言う建物?
まりや アクトタワー?

   楽団からハーモニカの音色が流れてくる。

ミリヤ 待ちますか。
まりや そうしますか。

   友子が現れ、スマホを操作。



友子 まだ?
幸夫 もう少し。今どこ?
友子 川がある。
幸夫 新川?
友子 新しいんだ。

   友子はさがす。

友子 うん。新川。
幸夫 川を南へ。
友子 やっぱ南?
幸夫 川沿い美術館。
友子 美術館?
幸夫 歩けばわかる。
友子 歩く。わかったら連絡して。
幸夫 了解。

   友子は新川沿いを歩き出す。
   新川の川べりの絵の写真が置かれる。



   北口にいるミリヤとまりや。

まりや 遅い!
ミリヤ 返事は?
まりや (スマホをみて)なし。
ミリヤ 既読は?
まりや 既読スルー。
ミリヤ 電話する。

   ミリヤ、スマホで電話。
   着信音。
   友子、スマホを見るが電話に出ない。
   ミリヤ、電話を切る。

ミリヤ 出ない。

   ミリヤ、スマホを見る。

まりや こっちも返事きた。

   まりやもスマホをみる。

友子 ごめん。南にいるので行けない。二人で行ってて。
ミリヤ え~!三人で楽器博物館行こうって約束したんですけど。
まりや (小声で)楽器を演奏するのが好きであって、見るなんて意味がないっていってたのに。
ミリヤ まさか。
まりや え。
ミリヤ 幸夫君。
まりや ああ。もったいないよねえ。トランペット上手だったのに。
ミリヤ 確か、ここ出身。
まりや そうなの?だら~、だら~(遠州弁方言)って言ってたの、ここなの?
ミリヤ 大学辞めて、地元戻ってるって。
まりや ふ~ん。それがどうかしたの?
ミリヤ 友子、幸夫君に会いに行ってるのよ。
まりや まだあきらめられないんだ。
ミリヤ 大会の前に、何やってんのよ。フラれた男に会いにいくなんて。
まりや あきらめろ!って言ったのに。
ミリヤ 連れ戻しに行こう。
まりや 楽器博物館は?
ミリヤ 楽器博物館と友達とどっちが大事?
まりや どっち?って。
ミリヤ 行くよ。南へ。
まりや 南?
ミリヤ 駅を北から南へ突っ切って。
まりや 北から南。ああ。
ミリヤ まあ、すぐでしょ。早く連行出来れば、楽器博物館も行ける。
まりや やった。行こう。南へ。

   友子はスマホを見る。
   
ある男 砂山と名がつけられたのは、昔このあたりが砂丘であったからです。



友子はスマホに打ち込む。

友子 送った?
幸夫 送ってない。これ誰?
友子 こんなことある?
幸夫 ラインに入り込んでる。
ある男 見渡す限り砂の丘と松ばかり。

   楽団員が、ブルーシートを地図の上に敷く。
   ミリヤとまりやは、駅があった場所で立ち往生している。




まりや 南へ行けない。
ミリヤ あれ?

   ミリヤが、スマホをしきりに操作している。

ミリア アプリが消えていく。
まりや 電話は?
ミリヤ あ、ない。
まりや (自分のスマホをみて)あ。

   ミリヤとまりやは、南をさがして、消えていく。

ある男 その地は、江戸時代の享保年間から開墾が始まり、文久、元治にかけて一大美田が造成され、明治三十年ごろまでは、ほとんど田んぼでした。

友子 これってハッカーのしわざ?
幸夫 俺たちのラインに入ってくるハッカー?
友子 今どこ?
幸夫 もう少し。
友子 電話していい?
ある男 明治から昭和にかけて、大手工場が進出して、発展の源となりました。帝国製帽、浜松ガス、遠州織機など。
幸夫 待って。
友子 電話する。(電話しようとする)
幸夫 俺が住んでいる町の話だ。
友子 ・・・(電話をやめる)
ある男 明治二十二年に東海道線が開通。砂山町の北側に浜松停車場が出来ました。
幸夫 今のJR浜松駅。

   楽団員が、ブルーシートを取る。

ある男 昭和に入ると、老舗商店が中心となり、「励み会」を結成。商店会活動に力を入れ、売り出しの時、抽選の特賞にはタンスを出すのが恒例で、これがまた大好評。

   楽団員が、カランカランと特賞を知らせる鐘を鳴らす。

楽団員 タンス、大当たり~!
ある男 下町らしい活気をさらに盛り上げたのが、「公設市場」や「あけぼの市場」。八百屋さんや魚屋さんの威勢のいい声が響いていました。

   楽団員たちが、「らっしゃい、らっしゃい~」などと賑やか。
   爆撃の音がする。

ある男 第二次世界大戦のとき、浜松で最初に爆弾が落ちたのが砂山町。あたり一面焼け野原。北を見渡すと、松菱だけがポツンと残ってい ました。その松菱も今はありません。

   「焦土と化した市中心部」の写真を置く。



ある男 町を立て直そうと、みんな必死に頑張り、次々と商店ができ始め、商店連盟もいち早く結成しました。

   友子は、続々割り込んでくるスマホの画面を見ている。

ある男 復興後の商店会活動第一の事業として、昭和三十年、ネオンアーチをとりつけました。昭和四十三年、砂山銀座通りに、アーケードが 出来ました。昭和六十二年、新たに砂山銀座サザンクロスとして生まれ変わりました。

幸夫 サザンクロス。

   友子は画面を見ている。

幸夫 おじいちゃんが、料理屋をやっていた。

   友子は画面を見ている。

幸夫 親父は、そこで生まれた。

   友子は画面を見ている。

幸夫 親父が子供の時、商店街が遊び場だった。

   友子は画面を見ている。

幸夫 商売のじゃまになると、おじいちゃんから怒られた。

   友子は画面を見ている。

幸夫 親父は店を継がず、サラリーマンになって、俺たち家族を養った。
ある男 東海道線は北と南を分断していました。

   楽団員が、通行止めの標識を置く。
   ミリヤとまりやが現れる。
   地図の線路の前で立ち止まる。
   ミリヤとまりやは、「平田の踏切」の方へ行く。

ある男 平田(なめだ)の踏切は一日二百回以上合計十時間も遮断機が降りていました。三十分も待たなければいけない時もあり、「開かずの踏切」と呼ばれていました。

   楽団員が「平田の踏切」を置く。



まりや 三十分も待つの?!
ミリヤ あっち行こう。

   南に抜ける道をさがして、反対方向へ向かう。

ある男 松江の地下道は狭くて、車が通る脇を北と南を移動するのは、歩行者にとって、命がけでした。

   楽団員が「松江の地下道」を置く。
   ミリヤとまりやは車をさけて、地下道を命がけで通りぬけようとする。
   必死の思いで通り抜ける。

まりや 南に来たものの、どこだろう。ここ。知らない場所なのに、懐かしい。

   ふたりはあたりを見渡している。
   北側をゴトンゴトンと電車が通る音がする。
 
ミリヤ 手を振っている。
   
   ミリヤはそちらに向かい、手を振る。
   まりやも負けじと手を振る。
   電車は行ってしまった。
   
ミリヤ 友子~。

   呼びかけるが、返事はない。

まりや 携帯電話がなかったころ、待ち合わせ場所で会えなかったとき、どうしていたんだろう。
ミリヤ その日は、永遠に会えなかったかもね。
まりや 糸電話、あるでしょ?
ミリヤ 糸電話?幼稚園の時、作った。
まりや 糸電話の糸を伸ばしていくと、延々と続いていってね・・・。

   楽団員が、糸がついた紙コップをまりやに渡す。
   まりやが、糸の先を延々と伸ばしていく。
   できるだけ伸ばしたら、糸の先を紙コップに取りつけて、観客のひとりに渡す。
   即席の会話ごっこをする。



ミリヤ、まりや 友子~。
ある男 昭和五十四年十月、東海道本線の高架化事業が完成。それまで線路で分断されていた北と南の移動がしやすくなりました。

   友子が、スマホを見ている。

友子 どうして大学やめちゃったの?

   幸夫の返事はない。

友子 誰にもなんにも言わずに。
幸夫 うるさいな。
友子 うるさいって、なによ。
幸夫 関係ないだろ?
友子 関係ないことないよ。
幸夫 ない。
友子 ある。
幸夫 会うの、やめよう。
友子 いやだ。
幸夫 明日、大会だろ?
友子 明日だから。今日は大丈夫。
幸夫 会っても、意味がない。
友子 せっかくここまで来たから。
幸夫 行くとこ、ほかにもあるよ。お城とか興味ある?
友子 全然ない。
幸夫 そうだ。楽器博物館!
友子 ミリヤとまりやと行くことになっていた。
幸夫 あ、ふたりは元気?
友子 今は私のことだけにして。

   幸夫の返事はない。

友子 トランペットは?
幸夫 まだあるよ。
友子 吹いてる?
幸夫 いつかね。
友子 あ、そうだ。おじいちゃんは?大丈夫?
幸夫 大丈夫だよ。
友子 ・・・おじいちゃんと散歩って。
幸夫 俺が、車いすを押している。

   友子の返事はない。

幸夫 そろそろ戻る。
友子 わたしも行く。サザンクロス。

   幸夫の返事はない。

友子 行くから。幸夫君が住んでいる町知りたいから。見たいから。感じたいから。どんなところで生まれ、誰と出会い、何を見て、どんな風に育ったのか知りたいから。それと、幸夫君のおじいちゃんにも会いたいから。
幸夫 俺さ、今、料理の勉強してるんだ。

   友子の返事はない。



幸夫 おじいちゃんに教えてもらって。もうじき、この町の店に修行に入る。
友子 へえ。
幸夫 トランペットも吹くかもね。
友子 修行がつらくて、泣きながら吹いてたりして。
幸夫 店の裏でね。
友子 うるさくて怒られるよ。
幸夫 あ、祭りでラッパを吹いている。うますぎるけど。

   お祭りラッパの音がする。

友子 そういえば、文字だと、だら~じゃないね。
幸夫 会えば、だら~だよ。

   友子は、サザンクロスへ向かう。

ミリヤ 見てよ。楽器工場。

   楽団員が、小さなピアノを置く。



まりや ほんとだ。
ミリヤ 楽器博物館のかわりに見ていきますか?
まりや また今度。わたしは、明日、いっしょうけんめい、演奏するよ。
ミリヤ おー。おー。
まりや あ、スマホ復活。
ミリヤ 文明開化!
まりや 明治維新か!
ミリヤ マップマップ。

   まりやが、スマホを操作。

まりや この道、まっすぐ行くと、射程距離、サザンクロス。
ミリヤ 進もう。
まりや 進もう。
ミリヤ 南十字星に向かって。

   河合楽器からサザンクロスへ続く道が、テープで描かれる。
   ミリヤとまりや、サザンクロスへ向かう。
   友子、ミリヤ、まりやは、楽団員たちのところに合流する。
   車掌が笛を鳴らす。



車掌 サザンクロス~、サザンクロス~。 
                            おわり    




 

本日12時から路上演劇祭!!

カテゴリー │路上演劇祭

本日6月3日、
サザンクロスで路上演劇祭!
天候もいいようです。
ぜひお越しください!!