静岡県舞台芸術劇場BOXシアターで「生きるフリー素材」を観た

カテゴリー │演劇

2月25日(日)14時15分~

この日は雨だった。
浜松から車で行ったが、会場である舞台芸術公園は、日本平山頂に向かう山の中腹にある。

駐車場から、
野外劇場や研修交流宿泊棟などもある公園の稽古場棟「BOXシアター」へ向かう道は、
晴れなら気持ちが良いが、雨なら・・・。
これも生の舞台を観に行く興趣のひとつだと、慰める。

会場の名前が、稽古場棟「BOXシアター」なのだ。
傘を差し、修行の場に行程を歩む。

SPAC県民月間は、
県内で舞台活動を行っている団体が、SPACの劇場を会場として、
自主的な作品創作・上演活動をSPACと協同で行う、とチラシにある。

“協同”と言うのが、どれくらいの範囲のものなのかは、
参加したことがないのでわからないが、
そのあたりは、公益財団法人故の、ひとつの使命として、
行っているのだろう。

演劇人「狐野トシノリ」を“フリー素材(役者)”として提供するので、
彼を使い、10分程度の短編芝居を作ってみませんか?

という呼びかけに対し、7組が応じる。

狐野さんへのアプローチがそれぞれ異なり、興味深かった。
対狐野さんだけではなく、
別々に作るとは言え、行われるのは同じ日同じ場所、
共に、
さまざまな作用が働く、と思う。

セリフがあったり、なかったり、
動きがあったり、なかったり。
忖度かもしれないし、思いやりかもしれない。
ただし、作り手のやりたい演劇は変えない。
それぞれの演劇をやる理由が見えてくる。
「狐野トシノリ」を通して。

猫熊 「マッチングヒーロー」
助けを求められたヒーローが呼ばれるごとにお決まりの言葉を名乗るが、そのアイテムが増えて行く。
特定の演劇のワークショップ課題を思い起こさせ、「圧を加えて行く構造」にこれも演劇の現場から生まれたんだなあと実感。

イチニノ 「ぜんぶきあつのせいだ」
ひとりの男のモノローグで演じる“きあつ”のせいを、文字パネルを用いて呼応し、いろいろなせいにして行く。
負担が圧倒的に大きいのはモノローグを語るイチニノの俳優だが、1本目は攻められていた狐野さんが逆の立場でとても楽しそう。

加藤解放区による「校長上京劇場2024」
永田莉子さんの多彩な手段を用いた語りに対し、狐野さんが、動きで反応。
SPAC宮城聰さんの語り(スピーカー)と動作(ムーバー)を分けた演出を思い起こすが、語りと舞を分けるのは舞台芸能の伝統でもある。

Ya-ma 「SXXしないと出られない部屋」
漫才のM-1、コントのキングオブザコントではあまり見かけないが、ピン芸のR-1では、裸芸は王道でもある。
演劇か演芸か、笑い志向の作品にとり、時には悩ましい批評を受けるのは覚悟の上。この企画ならではのギリギリ演劇。

竹内芳 「午後の恐竜」
日常に恐竜時代が入り込み、そこから進化していく星新一のショート・ショートを演劇化。
ひとりの男が、変わりゆく状況の変化に対し、ひたすら反応。演劇は何かを創っているとも言えるが、ひたすら引き受けているとも言える。

小粥幸弘 「レター」
狐野さんに迷惑をかけないという、競争社会で「我れが我れが、狐野さんを!」から離れた奥ゆかしいスタンスがなぜかおかしい。
レターと言う形の台本を読ませる気遣いと共に、ホントは別の題材を考えていたという本音も匂わせる。これもまた生の舞台。

浅野雅人(FOX WORKS) 「スーツ」
同じ劇団の所属するメンバーらしい、主宰でもある狐野氏への愛あるオマージュ。
身体ひとつの俳優に対し、演目が進むにつれ、対処が変わっていくのが、生の舞台らしく、生々しい。皆のリレーの最後のバトン。

演目の合間にMCによる作者、演出者、出演者とのインタビューが入る。
その間には狐野さんの着替えタイムも入る。
チラシには上演時間を約100分を予定とされていたが、終了したときは120分を過ぎていた。
インタビューは長めになりがち。
それは、参加してくれた人への気持ちが入るからだ。
もちろんこれは観客へのサービスでもある。

これは、単に僕が思い浮かべた仮定だが、
課題とする作品時間約10分をノンストップでやってみたらどうだっただろう。
衣装は早替え、歌舞伎とかのように黒子が協力して。
場所は街中のせまっくるしい小さな劇場がいいかもしれない。
一人の役者が作り手が異なるさまざまな世界を右往左往する。
観客は濃密な60分の1本の芝居を観る体験をする。

これもまたひとつ。