穂の国とよはし芸術劇場PLATで二兎社「ザ・空気ver3 そして彼は去った・・・」を観た

カテゴリー │演劇

2月21日(日)13時~

永井愛さん作・演出。
二兎社の作品。

「空気」という言葉を広辞苑で引いてみた。
①地球を包んでいる無色透明の気体。
地上から高度80キロメートルまでの組成はほぼ一定で、体積比で酸素20.93、窒素78.10、アルゴン0.93・・・
途中だが、我々が生きていくのに欠かせない、気体の説明はここではもういいだろう。

②その場の気分。雰囲気。
これだ。
永井愛さんが2017年の「ザ・空気」、2018年の「ザ・空気ver2 誰も書いてはならぬ」に続き、第3弾。

「空気」が物事に左右するのは、人がいるところどの世界にもある。
家庭でも学校でも職場でも。
日本人はとかく「空気」に左右されやすいというが果たしてそれはどうなのだろう?
海外の人のことをそんなに知っているわけではないが、
例えば、映画なんかを観ていても、そんなに違うことを考えているとも思えない。
欧米人が自己主張をするといいながらも、
まわりの「空気」を読まないで主張しているわけではない。
主張した後のまわりの「空気」の変化も 承知の上、あえてするのである。

それでも「空気」をうまく使える人間になりたいとは思う。
望むべくいい方向に「空気」を変えるというか、
できれば操ることができるまでになれるといい。

僕だけでなく、他の人もそう思うから、
そこに軋轢が生まれる。
考えてみれば、「空気」の操りあいだ。
亀仙人は、気体としての「空気」を武器として操ることができるが、
僕たちも、雰囲気としての「空気」を形としては見えないが、
亀仙人と同様、操ろうとしているのだろう。

「ザ・空気ver3 そして彼は去った・・・」の舞台はとあるテレビ局。
僕は観ていないが、第1弾もテレビ局が舞台だったようだ。
つながりがあるかどうかはよくは知らない。
9階の会議室が舞台として使われていることは
なんとなくネットの記事で目にした。
桜木という人物の名がどちらにも登場しているようだが、
同じ人物なのかはそれ以上調べていないので、知らない。

とにかくver3は9階の会議室から幕が開く。
マスクを装着した佐藤B作さんが現れる。
BS放送の政治を取り扱う番組にコメンテーターとして呼ばれたようだ。
しかしながら、体温検査で37.4度だったため、
本来招かれるはずの場所(スタジオだろうか)には入れず、
別室(9階の会議室)に一旦隔離させられる。
37.4度という作家の選択に冒頭から笑ってしまった。
日常なら笑う場面ではないだろうに。

空気シリーズでは一貫して、政権に対する報道のやり方を題材にしている。
今回の題材も、実際に起こったことを想起させる。
だからこそ、まさに今の状況であるコロナ禍を舞台にすることが必須だったのだろう。

佐藤さん演じる横松はかつては新聞記者をしていて、
時の政権の問題点を臆することなく(つまり「空気」に配慮することなく)
堂々と論じる記者であった。

当時の後輩である桜木は、そんな横松を尊敬していた。
ただし、新聞社を辞め、その後政権の中枢に関連することになり、
自らの信念に反していると判断する場合でも、心を曲げて(つまり「空気」に配慮して)、
政権の判断に添っておもねるようになる。

横松を尊敬していた桜木は、その後も自らの信念に添った仕事を続けるが、
様々な軋轢を理由として、自ら命を絶つ。
また、その命を絶った場所が、この9階の会議室というのである。
その話を聞いた横松の心は乱れる。

番組のチーフプロデューサーである神野三鈴さん演じる星野は、
時の政権の不正に切り込む姿勢が疎まれ、
この日の番組を最後に、閑職の部署に移動させられることが決まっていた。

金子大地さん演じるアシスタントディレクターは
不遇な待遇で、しかも仕事に追われて寝ていない。(寝るとしてもテレビ局の廊下)
和田正人さん演じるチーフディレクターは
10年下積みをしてやっと今の地位になった。
韓英恵さん演じるサブキャスターは、
横松からセクハラ受けがち。(これはあまり話の本筋と関係なかったようだが)

それぞれの登場人物が自らの職責、
自らの信念をまっとうし合う中で生じる「空気」に芝居の全体は動いていく。
横松の口から衝撃の事実が発せられる。
内容は現政権が発足した後に問題となった実際にあったことを題材にしている。
もちろんフィクションである。

この言葉が発せられてから、途端に芝居は動きを増す。
各自それまで心のうちに秘められていた感情が湧き出す。
その事実を横松が番組でしゃべれば、
世間は衝撃を受ける。
ただし、それをこの番組は受け止められるのだろうか?
見えない「空気」が、それぞれの行く先に立ちはだかる。

ただし、横松は、自ら、身を引く結論をとる。
それは信念を通すという生き方の問題だけでなく、
肉体を持つ同じ人間として、心痛い部分もある。
37.4度である理由が切ない。

その場から去れば、一旦「空気」は収まったかのように見える。
それも人が生きていく術なのだろう。
ただ、逃げるべきではない時もある。
そのことは横松もよく知っている。

追記(2月28日)
すでにこの演劇で題材となった任命拒否問題もすでに過去のものになった気がする。
ちょうど今は官僚の接待問題が話題となっている。
ほどなく過去のものになるだろう。

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