メロープラザ多機能ホールで演劇集団es「さっきまで雨だった」を観た

カテゴリー │演劇

2月11日(日)13時30分~


演劇集団esにとり、20周年公演だと言う。
今回は第12回公演と言うが、パンフレットの年表を見ると、
その間には、イレギュラーな公演もたくさんある。
自ら企画を組むこともあれば、外部の企画に参加する場合もあっただろう。
本公演とは別に、つながりを求めて、違う形を見出していくのは、集団の特徴かもしれない。

その内、2006年11月はままつ演劇・人形劇フェスティバルのユニットライブでは、
僕もフィールドという劇団で参加していて、クリエート浜松でそれぞれの作品を上演した。
その時、演劇集団es結成3年目。

2003年4月17日にあるホールの物置で6名で結成されたという詳しい経緯は知らない。
集団名のesは、Mr.Chirdrenの『【es】〜Theme of es〜』(1995年のシングル曲)に影響を受けたのかもと思ってみるが、
その確証はない。

esとは、フロイトが人の心を3要素に分けた心理学の用語。
欲求や感情など動物的本能であるエス(esはドイツ語)、
親や周囲から教えられたしつけである超自我(スーパーエゴ)、
それら相反する両者をコントロールする、自我(エゴ)。
そのようにバランスを取りながら、現実での実際の行動を選択し判断しながら、人は生きているのだと言う。

〇〇したいという「欲求や感情」がじゃまをする「障害」によりさえぎられ、心の中の「葛藤」が起こり、
それが原因として変化(ドラマ)が生まれる。
演劇、映画やドラマでも、このようにして、ストーリーは動いていくものである。

当然、演劇をやろうと集まって来た人たちには、それぞれの始める理由「欲求や感情」がある。
「演劇」を究めたい!と言う人もいれば、
「演劇」を楽しみたい!と言う人もいる。

今回、タイトルのある6本の短編作品の上演となっているが、それらが同じ地平で重なっているのが特徴。
1本の長編作品とも言える。

登場人物たちが持つそれぞれの「感情や欲求つまりes」は何かしらの「障害」によりじゃまをされている。

1本目の「結婚のゆるし」では、彼氏と実家に結婚の許しをもらいに来て、対峙しているのは兄だ。
父は1年前に亡くなり、母は忙しく、また体調を崩すこともある。
兄が妹の結婚相手が非正規雇用であることを理由に結婚に反対するが、
それは本来その役割を果たすべき父親が不在ゆえに「父」の役を負っているからだ。
コミカルな悪役の様なコスチュームで行うヒーローショーのバイトも、
父不在ゆえ、正義感溢れるものに、特別な思いを抱いているのかもしれない。

2本目の「雨が降ったら」では、ひとりの女性が突然の雨に雨宿りに木の下に駆け込むとそこには先客がいる。
見知らぬ同士の偶然の出会いから、会話が始まり、
明かされるそれぞれ抱える大切な人の「不在」。
ひとりの女性は仕事をしているアメリカから帰って来たと言い、
それは後につながる。

3本目の「靴を磨きに(また別の話)」は、下の妹の結婚式に出る時の父の形見の革靴を磨いてもらいに来た
靴磨き職人との会話。
話しをしている中、10年前に死んだ父がここに何度も訪れていたことを知る。
靴磨き職人が常連を失うことも、ひとつの「不在」を抱えるということ。
商売なら、他の店に移るとか、革靴を履かないようになるとか、珍しいことではない。
10年の時を経て、その息子が同じ靴を持って訪れることで、
客の死を知り、彼の娘の結婚を知る。

兄にはふたり妹がいて、結婚しようというのは下の妹。
彼女は夫を早くに失い、子供三人を育て上げてきた母の姿を見ているからか、
夫になる相手には、例えば多く稼いでくれるとか、経済的なことを条件に考えていないようだ。
つつましく生きるとか、何なら自分も働くという気持ちがあるのだろう。
4本目の「ちいさな景色」では、帰宅した娘のために、彼女が大好きなにんにくたっぷりのカレーをつくろうということから、
彼女が知らなかった母の思いを知る展開となる。
柔道をやっていて強かった母とかよわい父との若かりし頃の出会い。
母は、夫が死んでから、どこか無理をし、心に重しを持ち続けていたのかもしれない。

5本目の「兄と妹の話」の舞台は、認められ、無事行われるふたりの結婚式。
雨宿りの時の先客の女性は式場スタッフとして奔走している。
ただし、母は体調不良で欠席と言う横たわる「不在」。
アメリカからやって来た女性は結婚する女性の姉。
突然の指名で挨拶をふられ戸惑う兄の妹。
三人兄妹が久しぶりに揃うことになる。
同じテーブルに同席する兄と妹は、父の不在により、埋まらない葛藤を少し溶かす。

体調が回復した母の元にひとりの男性があらわれる。
リアルな世界が、ここだけファンタジーとなり、心の中の「不在」を埋める会話の場面で幕を閉じる。
そんな6本目のタイトルは「さっきまで雨だった」。

登場人物の「感情や欲求つまりes」は演劇の時間を経て、変化し、それぞれ帰着する。
それは、集団の人たちの思いとも無縁ではないだろう。

20周年おめでとうございます!

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