浜松市地域情報センターで劇団MUSES「刑事つかはらこうへい 熱海殺人試験」を観た

カテゴリー │演劇

12月24日(日) 14時~

当日パンフレットに作・演出者の言葉があり、なるほどと思った。
タイトルの「熱海殺人試験」は演劇ファンならずとも
つかこうへい氏作の「熱海殺人事件」を連想させる。
おまけにタイトルの前に、刑事つかこうへい、とある。

このタイトルをつけた理由を作・演出者は記している。
「擬態という。何かに似せることで、自身を巧みに隠すものだ。」
観終わり、はじめてその意図がわかる。

シリアスな現代世相をコミカルタッチで描くという紹介がされていたが、
その手法は、ふさわしかったのだろうか。
主役を刑事塚原好平ととらえていると見誤る。

好平の父であり、
元刑事で、いまや痴呆に悩まされている男、塚原英雄。
薄れゆく過去の記憶と隠された罪。

話はその罪から逆算されて構成されている。
ミステリーのひとつの構造である。
例えば2時間ドラマのミステリーだと
海沿いの崖で、犯人が刑事に追い詰められ、
真相がジャジャーン!!

こういう構造の宿命は
幕が開いてからの時間がすべて、
このジャジャーンの瞬間のためにある、
という事だと思う。

煙草を喫うだとか
地方のうまいものを食べるとか
一見意味のないような場面でも
同様だと思う。

実際にあった事件をモチーフとしたと思われる
「熱海たまのを園殺傷事件」をきっかけに
犯罪を未然に防ぐため、シミュレーションを演じ、試験で判定し
刑事の技術を上達させるという犯罪予防理論が確立される。

それは、塚原英雄が生み出した功績であり、
養子である息子好平に受け継がれている。
但し、この重要なファクターも
前言した罪の大きさから逆算すると
意味合いがまったく変わってくる。

新しく早乙女健司が配属されてくるところから
話は始まる。
それは悲劇のスパイラルに拍車がかかる
スタートのボタンが押されるということでもある。

観客はもちろんそのことは知らない。
不穏な空気を醸し出しつつも
コミカルに見せることを主眼に
展開する。

これは悲劇の効果を高めるための
手法だったのかもしれない。
しかしながら、見進めていく中で
観客は知る。

主役は、好平ではなく、父英雄である。
そして英雄を中心とした悲劇の構造である。
悲劇とは当人だけの悲劇では終わらない。
そのまわりの人たちの人生も壊す。
たとえ死をもって償ったとしても。

擬態という言葉がちらつく。
この本質をあえて隠したかったのかもしれない。
もっと言えば、
基本的には楽しく観てもらいたいというサービス心なのかもしれない。
しかし、本当に言いたいことはその本質にある。

2時間ドラマのミステリーなら、
刑事にせよ私立探偵にせよ家政婦にせよ浅見光彦にせよ
犯人が悲劇だったとしてもその悲劇には完全には巻き込まれない。
巻き込まれたら、次回がなく、シリーズとして成り立たないからだ。
ヒーローやヒロインとしての立場を保ち続ける。

だから、彼らや彼女らは何人犠牲者があっても、
事件が解決すれば、
お茶を飲み一服しながら、
事件とはそう関係のないこぼれ話で
同僚や周りの人と軽い笑い話をしながら、
エンディングを迎えられるのである。

タイトルは
「刑事つかはらこうへい 熱海殺人試験」である。
主役はやはり、好平・・・。
受けた悲劇の度合いを測るのも変だが、
悲劇度NO1は誰だろうか。

不倫の末につくった隠し子の存在を隠すために
事件現場であることを隠れみのにその母を殺すという殺人を犯し、
自首するどころかそのことを隠蔽し、職にとどまり、自分勝手な理屈で
罪滅ぼしでもあるかのように、正義感面して、
「犯罪予防理論」などというものを確立し、あがめたてられる。
夫婦としては子が出来なかったためか養子にとった息子は
自分の後を継いで刑事の職につき、働いていた同じ部署で
打ち立てた「犯罪予防理論」を部下たちと共に実践している。
そこに母を父により殺された隠し子が刑事になって赴任する。
父はその罪を痴呆により忘れ去ろうとしている。

・・・そんな父をもつ息子好平。
果たしてコミカルタッチがふさわしかったのだろうか。

チラシのキャッチコピーにこうある。
―これは事件じゃない。試験だ。罪なのか罪でないのか、どっちだ?」
僕の感想は
これは事件である。やはり罪だよなあ。今の法治国家では。
僕たちは、タイトル自体が擬態であったことに気が付く。

浜松市地域情報センターで劇団MUSES「刑事つかはらこうへい 熱海殺人試験」を観た



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