戯曲「ブラックボードマシーン」

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6月10日、路上演劇祭Japan in 浜松2023が行われた。

そこで、テラダンスムジカというユニットで、
「ブラックボードマシーン」という作品を上演した。

テラダンスムジカは演劇とダンスと音楽の3人によるユニットで、
僕が脚本を書いた。

特別ゲストは、さくちゃん。
結果的に、『演劇+ダンス+音楽+絵』になった。

練習もなしで、ありがとう。



ブラックボードマシーン

テラダンスムジカ


戯曲「ブラックボードマシーン」



ここは、砂が降る町。
降る時と降らない時がある。
だから町は、だんだん黒くなってきている。
そのことに町の人たちは気づいていない。

僕は子供時代、いじめられていた。
だからひざをかかえて、ひとり座り込む。
教室で。
校庭で。
僕の部屋で。
町のどこかで。

ひざをかかえていると、顔は下を向き、背中が丸くなる。
そこに、いじめっこたちが落書きをする。
やつらは頭が悪い。
字はめちゃめちゃで、絵だってへたくそだ。

おかあさんがあつらえてくれた白いシャツが、
みるみる頭の悪い落書きでいっぱいになる。

「まあ」
家に帰るとおかあさんが目を丸くして言う。
落書きをひととおり見た後、
白かった服を脱がし、たらいに入れ、水を出し、せっけんをこすりつけ、せっせと洗う。

取れないと思っていた落書きはきれいに消え、
元通りの真っ白になる。

戯曲「ブラックボードマシーン」


僕は次の日も、そのシャツを着て学校へ行く。
そして、落書きだらけで帰ってくる。
おかあさんは目を丸くして、「まあ」。
落書きを見て、シャツを脱がし、洗う。
シャツは白くなり、学校へ行き、丸くなった背中に馬鹿が落書き。
おかあさん目を丸く、「まあ」。
脱がし、洗う。
まるい背中、馬鹿、落書き、
おかあさん目を丸く、「まあ」。

ある日、おかあさんが用意してくれた白いシャツを脱ぎ、
黒いシャツを着て学校へ行った。
黒なら、やつらも書くことができないと考えたのだ。

強気な心と裏腹に、またひざをかかえ、背中は丸くなる。
いつものペンを持ち、やつらは僕に群がる。
「これじゃあ、書けねえよ」
黒いマジックを僕の黒いシャツにこすりつけ、クラス一番のガキ大将が言う。
ほかのやつらも、
「書けねえ。書けねえ。書けねえぞ」

「こいつ、黒板だ」
誰かが叫ぶ。
この時ばかりは頭の回転が速い。

戯曲「ブラックボードマシーン」


黒板。
黒いシャツの黒板。
やつらは教室の前へ走る。
チョークを手にする。

白いの、赤いの、青いの、黄色いの。
長いの、短いの、ちょうどいいの。
とがったの、まるいの、ちょうどいいの。

やつらはふりかえり、僕に向かって突進する。
足が速いやつも、遅いやつも。
黒いシャツに落書きをする。
まるで黒板みたいに。

それから、僕の反撃は始まった。
家に帰り、「まあ」と言って、黒いシャツを脱がそうとするおかあさんを振り切って、逃げだした。
おかあさんはひっくりかえるが、僕は振り返らない。

次の日、同じ黒いシャツを来て学校へ行く。
やつらは落書きだらけの僕にあきれたが、またチョークで書きだした。
字も絵も、何を書いているのかわからない。
重なり合っても関係ない。
書く猛獣。
書かざるを得ない、狂ったケダモノ。
次の日も。
次の日も。
次の日も。

戯曲「ブラックボードマシーン」


僕は、日ごとに体を硬くしていった。
硬い甲皮でおおわれたアルマジロのように。
黒板のように。

その時がやってくる。
僕は最大限に体を硬くする。

反撃能力のある鎧。
死の鎧。
背中に群がっていたやつらは、一斉にはじけ飛ぶ。
飛び散った指を、失った手を、もう片方でおさえ、体中を駆けめぐる激痛に耐え、耐え、耐え、耐えきれず、「ああ~」

わめき、泣き叫び、恐怖におののき、懇願する声。
「もうしません」「許してください」。
必死に謝るが、もう、遅い。

その中には、担任の先生もいた。

僕は無敵だった。
でも、ひとりだった。
僕は家を出た。
おとうさん、おかあさん、ごめんなさい。
こんな子どもで‥‥‥ごめんなさい。

戯曲「ブラックボードマシーン」


そのころから、町に砂が降るようになった。
異常気象だと騒がれたが、理由はわからない。

砂が降る日は誰も外に出ない。
傘は何の役にも立たない。
強い砂のせいで、死亡者が出たニュースが流れる。

僕は町に出る。
砂が降る日は大好きだ。
痛くなんかない。

そのうち、砂が降っても大丈夫な、特殊な傘が開発される。
人々は高価な砂用の傘をさして、外に出る。

砂が降る日は、町に人が少ない。
僕は町でひざをかかえ、背中を丸くする。
背中には、黒板。
ブラックボード。

僕は、機械。
ブラックボードマシーン。

戯曲「ブラックボードマシーン」


   ブラックボードの準備をする。

こうして、準備をする。
砂が上がった時のために。

人々が飛び出してくる。

   子供が出てきて、落書きを始める。      

子どもだけじゃない。
おとなも。
まるで、無邪気だった子どもの頃みたいに。

このブラックボードは、誰が書いてもいいのだ。
書いてはいけない人は、ひとりもいない。
もう腕を痛めることはない。
指が飛び散ることもない。
僕は、極めて安全な機械となって、生まれ変わった。

いじめたやつらも、もしも無事だったら、書きにくればいい。
担任の先生も、くればいい。

おかあさん、今でも元気にしていますか?

戯曲「ブラックボードマシーン」


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