「劇突」のワークショップ

カテゴリー │静岡県西部演劇連絡会会報原稿

■「劇突」のワークショップ              フィールド 寺田景一

はままつ演劇・人形劇フェスティバルの演劇部門のワークショップが今の形になったのが2010年のことなので、今年で7回目になる。
今の形とは、劇作セミナーで書きあげられた作品を題材に、演技ワークショップで地元の演出家たちとともに作品を作り、ファイナルイベントで発表する、という一連の仕組みのことを言う。
2009年のワークショップは演劇と人形劇の合同ワークショップが行われ、2010年も当初は引き続き合同ワークショップをやる計画だった。これが頓挫したところから、独自のこの形が磨かれていったとも言える。

先ずは、劇作のワークショップを行いたいということから始まった。
僕はまだ記憶している。
中区領家のカレー処ヤサカの敷地内にあった絡繰機械’Sのミーティングルームで、平日の夜、ワークショップの部会が開かれ、劇作ワークショップでの作品をファイナルイベントで発表しようというアイディアが出た。
それなら、そのための作品作りをするワークショップを演技ワークショップとして行うのはどうか。
指導するのは、複数の浜松で活動する演出家。
しかも1日で行う。
ここまで、面白いほど、とんとん拍子に進んだ。
ほぼ今の形は出来上がったと思う。
その後、高校演劇とつながりを深めたいということで、開誠館高校の体育館で、演技ワークショップを行うことになった。

自主公演も終わった冬のとある日、広い体育館のフロアには8人の演出家と、多くの参加者が揃うことになる。
僕はと言えば、進行役を担っていたが、最初と最後くらいしか出番はなく、途中は、各演出家の元、それぞれの手法で行われる演技指導を兼ねた芝居作りの様子を見学していた。
全体を見渡したその壮観な光景は忘れることができない。

ワークショップ部会担当である松本俊一氏が、提案書に『演技ワークショップの目的』としてこう記されている。

1、複数の芝居を、複数の演出によって、芝居作りをすることにより、脚本、演出、役者の関係を掘り下げ、芝居作りの研究、発展を図る。
2、募集した、参加者と既存の演出家、役者とのコミュニケーションを取ることにより、浜松の社会人演劇の存在をアピールする。
3、将来的に、大きなプロジェクト、例えば、複数の劇団の合同公演や、一般市民を募集してのプロデュース公演を成功させるための試金石としたい。
4、一般市民を募集することにより、地域劇団あるいは演出家の演劇的知識、方法論、技術等を還元する。また、私たちも新鮮な才能に接することにより、新たな発展の糧としたい。
5、未知のワークショップ形態にお互いの知恵を出し合い、挑戦することにより、参加者、演出、劇団の新しい可能性を発見する。

どうだろう。
3の複数の劇団の合同公演や一般市民を募集してのプロデュース公演以外は、成果を上げているのではないか。

劇作セミナーでは、書き上げた参加者分の新作短編戯曲が生まれている。
書くという動機はもちろん人それぞれなので、ここで1本書き上げたからと言って、次につながるかはわからない。
短編戯曲を書いたことをきっかけに、長編戯曲を書き上げ、しかも上演しました、という話は頻繁には聞かない。
実際に上演に至るには別の回路が必要となる。
もしかしたら、意思を同じくする仲間が集うことかもしれない。
もしかしたら、根回しに長けた制作者の存在かもしれない。
もしかしたら、上演を渇望する人たちの需要かもしれない。

2015年の劇作セミナーの講師であった、はせひろいちさんは、戯曲のことを「未完成の文学」と称していた。
また、三谷幸喜さんは自らの戯曲を上演のためのあくまで台本と称し、特例を除き(『オケピ』で岸田國士戯曲賞を受賞し、主催の白水社より出版)、出版を認めない。
上演されてこその戯曲、という意味であると理解する。
そして、上演するとなれば、役者は?演出は?会場は?集客は?宣伝は?照明は?音響は?美術は?衣装は?小道具は?稽古場は?日程は?となるのである。

では、なぜ合同公演や一般市民を募集してのプロデュース公演の話が出てこないのだろうか。
各劇団は自分たちの劇団がやりたいことを実現するために活動している。
その枠を超えるとなると、また別の回路が必要になる。

一番の理由は、目的を共有することが難しいからではないだろうか。
自治体が音頭を取るにしても、プロデューサー的な立場の企画者が旗を振るにしても、何のために行うのかという共通認識が必要になる。
そこから、戯曲や演出者が決まってくる。参加する役者やスタッフが決まってくる。
チケット販売も協力して行うことになる。
むしろ商業的な成功が目的である公演の場合は、割り切りがしやすいかもしれない。
言い方を変えれば、合同公演を実現させる必然性も、それを求める声もそんなにないということかもしれない。
どうだろうか。
                    


静岡県西部演劇連絡会会報 2016年12月18日号より

写真は2010年の時の演技ワークショップの様子。
「劇突」のワークショップ


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